読後感想文〜書評show〜

フィクション大好き!こよなく本を愛するLULUがありのまま、感じたままに本を紹介します。好きな作家は、吉田修一さん、津村記久子さん。

2016年11月

碧野圭著「菜の花食堂のささやかな事件簿」を読みました。

月に二回開かれる、菜の花食堂での料理教室。オーナーで先生でもある靖子は、凝ったメニューではなく誰にもできるような簡単な食事を、基本に忠実に丁寧に作ることを大切に教室を開いていた。
そこに月謝を支払う代わりに助手としてサポートすることになった優希。そこに集まる人たちは、主婦からママ友、定年後の男性や花嫁修業中の独身女性など様々で、靖子はその中心にいて皆に目を配る優しい笑顔を振りまいている。
ただその洞察力は鋭く、皆の小さな悩みや不安や問題を次々と解決に導き、料理と同じく確固たる信頼を得ていくのだった。


料理教室に集まる面々の些細な変化を見逃さず、小さなことから事の真相に迫っていく靖子。
靖子を慕い、自身も靖子に救われた過去のある優希。この2人がそれぞれの思いで、問題に迫っていき、そこには血なまぐさいミステリーとは無縁なのだけれど、実は身近な事件ってこういう事なのだなと思います。

少しのすれ違い、考え方の違い、思い違いなど、人に相談し自分の気持ちを吐露する事で解決することは、もしかしてたくさんあるのかもしれない。
人との関わりの中でゴールを探っていく人たちを見て、改めて現代にもこういうコミュニティって結構あるのではないか、と考えさせられました。

本当に「ささやかな事件簿」ですが、最後には皆を見守ってきた靖子の問題点にも触れるなど、一冊の本で実によくできた展開をする本作。今後の展開にも期待の持てるラストでした。


菜の花食堂のささやかな事件簿 (だいわ文庫)
碧野圭
大和書房
2016-05-20



著者の書店ガール、シリーズ化しているんですね。

書店ガール (PHP文芸文庫)
碧野 圭
PHP研究所
2012-03-16


羽田圭介著「スクラップ・アンド・ビルド」を読みました。
又吉さんの「火花」の方により話題が集まる中で、同じく芥川賞を受賞した本作。ようやく読めました。


離職したばかりの健斗は、母親と祖父と三人で暮らす若者。生きることに時々無気力になる祖父は故郷の言葉で耐えず「早う死にたか」と漏らす。ふとその願いを穏やかに優しく迎えさせてやろうと考えた健斗は、再就職がままならない日々の中で己の肉体をいじめ抜き、老いて衰えゆく祖父の気力を削ごうと若さと生命力に開眼していく。


この物語に登場する健斗は、決して残酷なわけではないけれど、若者特有のドライさを持ち合わせている青年。
本心はともかく、子供のところを転々とし、日中は何をするでもなく陽の当たらない部屋にこもり寝たり起きたりを繰り返す祖父の日常。何のアクセントも刺激もない毎日に一番飽き飽きして、終わらせたいと思っているのは祖父なのではないか。
離職し、再就職もうまくいっていない健斗は、一時的に「何もすることがない」状況に陥って初めて、祖父の願いのことを真面目に考え始める。
いつもしんどそうに家中を足を引きずるようにして歩き、同情を引こうとする祖父。何でも人にやってもらおうという姿勢にイライラを募らせる母親。
そんな倦怠した家の空気に、健斗は若者らしい発想で発起していく。その生命力がまさに未来に対する希望であり、活力なのだと、社会の縮図を改めて見せられたような作品でした。

スクラップアンドビルド、古いものは悪い、排除せよということではなくて、これまでの自分を壊して建設的な思想を持ち進んでいく、そんなことを感じ取れる芥川賞にふさわしい力作でした。

羽田さんはこんな風に一つのことについて、深く深く掘り下げていくような作品が特徴なのでしょうか。 何となく津村記久子さんに近いものを感じてしまいました。最新作のゾンビの話も、ちょっと興味があります。

スクラップ・アンド・ビルド
羽田 圭介
文藝春秋
2015-08-07



未だに「火花」に手を出していない・・・読んだ方、感想聞かせてください! 

大島崇裕著「問題物件」を読みました。

業界大手の大島不動産の総務部に偶然にも入社できた若宮恵美子に与えられた仕事は、事故で急逝した前社長の1人息子で重い病に侵されている雅弘の世話をすることだった。
ところが社長の弟である現社長との確執による派閥争いのあおりを受け、恵美子は突然役員である雅弘を室長に据えた販売特別室に異動となってしまう。
病床の雅弘を追い出そうとする作戦を阻止するため、問題とされる賃貸物件のクレーム処理という無理難題を強いられる部署で奮闘することになった恵美子。ただ、無茶な依頼を解決するすべもなく途方に暮れていると突然、探偵と名乗る犬頭光太郎という男が現れる。その行動力と不思議な力を秘めた犬頭に指示されながら、恵美子は雅弘のために奮闘することを誓う。


不動産関係の会社で仕事をしていたこともあったので、この「問題物件」というタイトルに惹かれました。
難しい病に侵され闘病中の雅弘を救うため、恵美子は目の前に突きつけられた理不尽な厄介ごとに立ち向かうわけなのですが、解決に向かうための面倒なプロセスはスーパーマンである犬頭によってサクサクと割愛できてしまうというミステリーにあるまじき離れ業をやってのけます。

犬頭の能力はまだ底知れないものがあり、彼の力が唯一及ばないのが「雅弘の病気の完治」というよくできたお話。
販売特別室の失態を待ちわびる、現社長派の面々。雅弘の完治に一縷の望みを託している前社長派、この二つの勢力に翻弄されながらも、雅弘を守るために問題解決に全力を尽くす恵美子と犬頭。

この犬頭の正体は割と早くからわかってしまうのですが、謎解きの過程よりも結果に重きを置いたミステリーで、いろいろなことが後半に向かうにつれしっくりくる、という流れになっていました。
難しいことを考えないで、さらっと読めるエンターテイメント。これ、ドラマ化してほしいなぁ。

どうやら続編もあるらしいので、ぜひチェックしたい。

問題物件 (光文社文庫)
大倉 崇裕
光文社
2016-07-12






大倉さんって、檀れい主演でドラマ化された福家警部補シリーズの著者だったんですね。



 

群ようこ著「パンとスープとネコ日和」を読みました。

wowowでやっていたドラマが大好きで、もう何回も見ていましたので、小説はどんな感じかなと興味津々でした。


アキコは父親の顔を知らず、食堂を営む母と2人暮らしの出版会社勤務の女性。
自宅の一階にある店で酔っ払って客と騒ぐ母親のことが好きになれず、アキコはなるべく店とは関わらず生きてきた。
ただ、その母が突然この世を去り、自分が本意ではない経理部署に異動になることを知ったことで会社を辞め、食堂を大胆に改装して店をオープンすることを決意する。ただ母親が大事にしてきた町の食堂ではなく、全く違う自分なりの店を作っていくアキコ。
そこには様々な葛藤、出会いと別れがあった。


ドラマ版は「かもめ食堂」のテイストが色濃くあったので、小説よりは淡々としたイメージ。
主演のアキコを小林聡美さん、頼りになるしまちゃんが伽奈さんということで、小説が先ならもう少し別のイメージを持っていたかも。
小林聡美さんゆえに、小説の中にあるアキコのジメッとしたエピソードや心のうちはうまく丸めて独特の世界を守っていました。

近くにあったらいいなぁと思える、素材にこだわり、味も極力素材の味を守ろうと薄味にしているアキコのお店。
同じようなナチュラルテイストの女性が集まってくることに疑問を抱きつつ、かつての常連さんが離れてしまったことにも申し訳なさを感じ始めるアキコ。
何も言わずに突然いなくなった母親の秘密をひょんな事から知ることになるけれど、同時に大切なネコがいなくなった弱さをそのことで癒されるというエピソードは微笑ましくも暖かい。
ちょっと同じような気持ちがぐるぐると旋回するところは、イラついたりもするのですが、それがまたアキコという女性の内面を印象付ける意味もあり、ドラマよりもより人々のキャラクターが感じられます。

アキコが母親と折り合えずに、葛藤する姿は女性としては共感するところもありました。

ドラマ版、また見たくなってしまったなぁ。

DVD発売していましたね。









 

紗倉まな著「最低。」を読みました。

スカウトマンと関係を持ったことでふっと足を踏み入れた女、会社が倒産した時に出会った男に誘われて制作側になった男とその男と一緒にいた女、セックスレスの夫との関係に不満を抱き気づくと自らを捧げていた女、母親が昔そうだったという少女・・・AV業界を軸に揺れ動く男女の関係を、現役AV女優が描く。

AV業界に足を踏み入れていく男女の姿を、決して堕ちたという視点ではなく、日常の延長のように描いた本作。あまり気持ちのいい描写ではない部分もあり、何となく胸がざわつくようなストーリーでした。
本当のところはわからないけれど、何か内側からのぞいているような書き方だったので後から調べると、作者が現役のAV女優(セクシータレントという言い方の方が正しいのでしょうか)であることがわかりました。 

ここでAV女優になっていく人たちは、決してお金のためというわけではなく、精神的な欠乏感から求めているようなところがあります。
周囲には決して理解されず、孤独と戦っていくことになることを、あまり躊躇なく選んでいる。それはもうすでに孤独で不安だから。
最初はわけもわからず飛び込んだけれど、いつの間にかその中にどっぷり浸かっていた制作側の石村という男が、その全てを包み込んで静かに立っている、そんな印象です。
 
読後感がすっきりしたわけではないけれど、このストーリーにしっくり来るようなタイミングって女性の人生の中には瞬間的にはあるものじゃないのかなと思えました。 女性の欲望が実にストレートに素直に描かれています。


最低。
紗倉 まな
KADOKAWA/メディアファクトリー
2016-02-12



 

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