読後感想文〜書評show〜

フィクション大好き!こよなく本を愛するLULUがありのまま、感じたままに本を紹介します。好きな作家は、吉田修一さん、津村記久子さん。

2016年10月

中山七里著「連続殺人鬼カエル男」を読みました。

実は、このカエル男というワードを見たときに、小栗旬主演の映画「ミュージアム」の原作に違いないとなぜか思い込んでしまったのですが、全然違うらしい・・・(苦笑)


ある日、入居率の悪い瀟洒なタワーマンションにビニールシートにくるまれて吊るされた死体が発見される。その私怨すら感じさせない冷たい死体に、捜査一課の古手川と渡瀬は薄ら寒さを覚えるが、そこには拙い幼児のような字で書かれたメッセージが残されていた。その文言から「カエル男」とマスコミが命名し、そのメッセージで繋がれた第二第三の事件が起こると町中は得体の知れない犯人像に次第にパニックに陥っていく。
手がかりもない中、憶測だけで犯人像が祭り上げられ、意味不明の恐怖によって市民は狂い、その矛先は警察に向けられていく。
犯人は一体誰なのか、そして警察はその威信をかけて犯人とその裏側に潜むものをあぶり出すことができるのか。


とにかく、もう恐ろしくて犯人の目的や理由がわからず、そこに住む市民かのようにパニックに陥っていきます。物語の途中で連続殺人の法則が予想にせよ明かされたことで、逆にパニックが増幅していくというさまを描いていくのが実に見事。
初期の中山さんの作品を幾つか読むと音楽に絡めたミステリーという色が濃かったので、今回は違うのかなと思いきや、犯人を推察する上でキーとなる精神障害者に対しての治療としてピアノ療法というものが登場します。そこでの描写は見事で、さすがという感じでした。
物語は、ある時から異様な側面を見せはじめ、古手川が親友を死に追いやったつらい過去と対峙する上でピアノが重要な意味を持って語られていきます。
その裏に隠された事実。そして、自分が感じ、見たことに対して自信を失っていく居心地の悪さ。

そういったものがない交ぜになり、たたみかけるようなラストに向かってめくる手間も惜しいほどに先へ先へと気持ちが急くようなお話でした。中山さんらしい裏切りの連続で、なるほどと唸る部分も多々。

途中、市民がパニックになって警察署に押し寄せるくだりは、ややだれてしまいしましたが、それもまたラストに向かって重要な一つの事件なのでしょう。

とにかく、一気読みできる体制を整えてから挑むのをお勧めします。止まりません。


 

映画の方の原作は、この漫画らしいです・・・


 

群ようこ著「働かないの」を読みました。

こちらは、有名広告代理店で日々忙しく働いていたキョウコが突然すっぱりと早期退職し、今後はこれまでに貯めた貯金を月10万円ずつ切りくずすと決め、働かないで暮らそうとボロボロのアパートに住み始めるというストーリーの「れんげ荘」の続編です。 

同じくれんげ荘に暮らすおしゃれでどこか達観したようなところのある女性クマガイさん、旅好きでほとんどアパートにはいないコナツさん。そして今回、またれんげ荘にモデルかと見紛うような若い女性チユキがやってくる。引越し当日リヤカー一つで現れた彼女もまた、ちょっと変わった感性の持ち主。
周囲の住人に刺激を受けながら、キョウコは元来の生真面目さが出て、ついつい何もしていない日々に「何か」を求めるようになってしまう。

そもそも無職になったのも、「何もしない」と決めたからなのに、どこかそれに物足りなさを感じてしまう自分を、友達に相談したりしながら、本当の自分に触れたいと足掻く女性の姿がとても真摯でほっこりします。

キョウコは新たな趣味として刺繍を思いつき、公言してアドバイスをもらうことになったのだけれど、走り出したら止まれない性格ゆえ、つい生真面目に達成しようと考えてしまい、また友達から「考えすぎ」というお叱りをもらってしまう。
有名な会社に入り、自分で決めてリタイアしたとなると、よほど自分を持っている強い人なのかと思いきや、内面では揺れながらときには気持ちと裏腹の行動を取る主人公には、どこか憎めない側面があります。

とても穏やかに読める一冊。こういうのをカフェなんかに持って行ってのんびり読むといいのかもしれないなぁ。
自分が生真面目に思い込んでいること、「もしかして違うのかも」と思えてくるかもしれませんよ。

不器用な私は刺繍に気持ちが行くことはないと思うけど、もし自分が同じ立場にあったら長い1日をどう過ごそうか・・・と思わず考えてしまいます。何を切り捨て、何にお金をかけるのか。
それって実は本当に大切な物で、もしかして今の生活からも外して考えられることかもしれない。

年を重ね、あまり無頓着なのもいけないと自分を奮い立たせるところや、刺繍に関して人を巻き込んでしまったことに責任を感じてしまうなど、わかるわかる!と思えるところが多々。だからこそ、キョウコには何かを見つけてより充実してほしいと感じてしまいます。

もちろん次作もあるんだろうな・・・今から楽しみ。

 
働かないの―れんげ荘物語 (ハルキ文庫)
群 ようこ
角川春樹事務所
2015-08-07







れんげ荘 (ハルキ文庫 む 2-3)
群 ようこ
角川春樹事務所
2011-05-15


吉田修一著「犯罪小説集」を読みました。

5編からなる中編集。それぞれ5つの事件を軸に、そこに行き着くまでの過程を丁寧にリアルに導き出した犯罪ストーリー。 

少女の失踪事件の容疑者とその母、その親子を取り巻く小さなコミュニティ。
かつての同級生が犯した保険金殺人を巡る同級生たちの壮絶な情報合戦。
大企業の四代目社長が陥ったギャンブルの泥沼。
小さな集落に集まる老人たちとそこに馴染み損ねた一人の男。
貧乏な家に産まれながらも、家族全員の支えによって成功したプロ野球選手の転落人生。


決して許されることのない犯罪が浮き彫りにされつつも、そこに行き着くまでのストーリーがどうにも逃げられない人間の業を浮かび上がらせます。
誰が犯人なのか、ということよりも、どうして犯してしまったのかに強くスポットが当てられ、その生き様を見る限りどこかその空気に当てられ、あたかもそこにいるかのように息苦しくなってくる展開もありました。

時には「何?どういうこと?」と煙に巻かれたような終わり方も。ただ、それこそがリアルで物事の真相など誰にもわからないことであって、それを理解したからと言って何かが大きく変わるわけではないかもしれない。
特に女の欲望をテーマにした「曼珠姫午睡」と、御曹司として育ち気づけばいろんな人から顔色を伺われ問題を提起されるばかりになった人生で、心置きなく付き合える友達との出会いにホッとその胸が解けた気がする「百家楽餓鬼」においては、どんどん押し出されていく運命の歯車が狂ったまま高速回転していく様が自分のことではないはずなのに胸に迫って苦しいほどでした。

吉田さんの作品にしては、その長さゆえか消化不良な気分になることもあったのですが、それも込みで彼の考える「犯罪」を描くというテーマがありのまま表現された小説だなと思いました。

人は自分の都合や私怨のみで犯罪を犯すとは限らない。これが真実なら、あまりにも哀しい。

犯罪小説集
吉田 修一
KADOKAWA
2016-10-15

 

桐野夏生著「ハピネス」を読みました。

ドラマがスタートする「砂の塔」がタワマンに住む主婦の恐ろしい人間模様の話・・・みたいな触れ込みだったのでもしかして原作?!と思いましたが、どうやら違うらしいです。

石見有紗は湾岸地区にそびえ立つタワーマンションの賃貸部分に住む主婦。いぶママ(いぶきちゃんのママ)他2人のママ友はタワーマンションの分譲高層階に住むセレブで、時々集まるママ友会に駅前の格下のマンションに住む美雨ママこと洋子(美雨ちゃんのママ)と有紗とは何となく壁がある。
有紗はある日、洋子に誘われ初めて2人きりで飲みに行くことになるが、そこで自分の知らない秘密や関係を聞かされ、言い知れぬ焦りを感じ始める。自分のことも知られてしまったら・・・有紗は自分の抱える秘密にそっと神経を尖らせるのだった。


タワマンに住む主婦たちの見栄の張り合いに最初は苦笑いするような気持ちで見つめていたのですが、有紗のあまりにも自信のない行動や考えに段々イライラしてきました。
子供を介してしか知り合っていないような、自分とは格が違う女たちとの付き合い、でも仲間はずれにはされたくなくて、何となく話を合わせたり、虚勢を張って嘘を言ったりしてしまう。その嘘に自分でがんじがらめになっていた有紗は、突然親しげに近づいてきた洋子にふと心を許す気になる。
何でも正直に口にし、決して高いものを身につけているわけではないのに元来の美しさで見事に着こなす洋子のことを有紗は苦手だと思いながらも、やがて信用し、頼るようになっていく。 

有紗は女たちのトップに君臨し、いつも隙のない外見と巧みな会話で皆を圧倒するいぶママに憧れているけれど、彼女に嫌われることを何よりも恐れ、萎縮してしまう。おとなしくて声高く主張できない地味な我が子を見ると、自分のママ友たちとの位置関係をそのまま見せられているようで落ち込む。 
ただ、有紗は徐々に自分の置かれている状況を受け入れ、過去にもちゃんと目を向けるようになる。決してスカッと発散したわけではないけれど、ゆっくり静かに有紗は変わっていく。 

ママ友の世界って全然わからないけれど、学生時代の関係、職場関係、そういうものとは違うヒエラルキーが存在するのだろうな・・・面倒そうだなと思いつつも、女の関係っていつでもどこでもそういう側面はあるなと思い当たる部分も。
正直に本音を言える人が妙にうらやましかったり、キラキラした生活を送る人に憧れたり、それがちょっと歪んでしまうと急に苦しくなってくる。そんなちょっとした隙をざらりと触られた、そんな作品でした。正直ばかりでも、見栄ばかりでも疲れてしまう・・・でもやっぱりその両方を持ちたいと思ってしまう。女って面倒臭いけど、面白い。

ハピネス (光文社文庫)
桐野 夏生
光文社
2016-02-09

 

大崎梢著「スクープのたまご」を読みました。

日向子はまぐれか偶然か、希望した出版関係である千石社からの内定を得、入社二年目にして早くも過酷な部署と言われる「週刊千石」の事件班に異動することになった。週刊千石は千石社の看板雑誌であり、政治ネタから芸能人のスキャンダルまで何でも来いの大衆誌。そのあり方に正社員ながらも一定の偏見を抱いていた日向子は戸惑うが、徐々にその裏側を知るにつれ、迷いながらもその自覚と責任が芽生えていく。
そして、無関係と思われていた事件が繋がるらしいとの情報を得たとき、総力を挙げてのスクープ合戦が始まった。


スクープを連発し、その伝える強い姿勢に定評のある雑誌週刊千石。何となく週刊文春を思わせる書き方にリアリティを感じつつ、週刊誌というものがどんな風にして作られていくのか、取材、裏付け、情報源、そう言ったものがよくわかるお仕事小説です。
日向子は「スクープありき」の姿勢に抵抗を覚えるものの、「ただ噂を面白おかしく報道する」ということではなく、そこには裏付けに次ぐ裏付け、丁寧な選り分け、足で稼いだいくつものネタ、そう言ったものが集まり、ガセ・無駄・空振りなどの労力の上にようやく世の中に出るのだということを知り、ただ指示されたことを行い、食らいついていく中で成長していく。

福山雅治主演の映画「SCOOP!」を観ていたこともありますし、今年は例年になく週刊誌のスクープが世の中を賑わせていることもあり、そういう業界の裏側を見るという意味でも興味深い内容です。

ただのお仕事小説に終わらず、途中からは推理小説のような展開に。ただ、あくまでも出版業界が主軸でありますので、そのあたりは消化不良な結末ではありますが冒頭のシーンが後々に生きてくるという、粋な展開になっていました。

大崎さんの作品はこれが初めてでしたが、途中ちょっと難解な部分があったり、何度か戻って読んだりということもありました。文章に慣れていないだけかもしれませんが、あまりこれまでに読んだことのないタイプの作家さんかもしれません。

それにしても、これを読むと週刊誌への見方、ちょっと変わります。

スクープのたまご
大崎 梢
文藝春秋
2016-04-22


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