読後感想文〜書評show〜

フィクション大好き!こよなく本を愛するLULUがありのまま、感じたままに本を紹介します。好きな作家は、吉田修一さん、津村記久子さん。

2016年08月

窪美澄著「アカガミ」を読みました。

恋愛に対しても生きることに対しても無気力な若者。それは東京オリンピックを境により顕著になり、10代20代の若者の自殺者は増え続け、結婚はおろか恋愛すら嫌悪されるものとなった。
そこで少子化対策の一環として、政府が打ち立てた「アカガミ」という制度。志願した若者は手厚く守られ、独自のシステムによりマッチングされた男女は、そこで恋愛や男女の営みをしていく。そこにいる限り、自分の家族たちも安泰というシステムに取り込まれた若い男女の、恋愛から出産に至るまでの近未来の物語。


少子化問題は今や現代日本の抱える病と言っていいのだけれど、そこに一石を投じるような近未来を描き出した本作。
その制度を「アカガミ」としたところに、この物語の結末が予想されるようなストーリーです。

恋愛そのもの、ひいては人と関わることすら面倒で街から若者の姿が消えた。そこで少しでもそれに興味があり、出産や結婚に能動的な人を集め、家族の生活までも保障するというエサをまいて若者を募るこの制度には幾つものハードルがあり、本気でないものは容赦なくふるい落とされていく。

そこであらゆる研究が施されたシステムにより選ばれた最適なパートナーと共に、ある日突然共同生活がスタートする。体調は常に管理され、その人自身の抑揚すらも把握された中で、「妊娠に最適な日」を支持される男女。そこには自然な恋愛や出会いなど皆無なのだけれど、成熟したシステムが導いたパートナーにはそれなりの適合性が備わっている。
いわば、国をあげてのお見合い制度のようなもので、それだけ聞けば微笑ましい対策のような気がするのだけれど、その生活は非常にシステマチックで情緒などを排除した合理的な世界。
若い人たちに蔓延する一定の認識による偏見、「アカガミ」に反対する人たちの声、障害はいくつもあるのだけれど、雑音の遮断された世界ではどこかそれは他人事で、若者は問題に直面するまで自分たちの置かれた立場を知ることは不可能。
民主主義と言いながらも、自分の考えや声を出すことに躊躇のある日本社会。それを巧みに利用した制度づくりには脱帽する一方で、ラストにはもう少し粘りが欲しかったなというのが正直なところです。

ただ、読み込んでいくと、物語の中の若者に蔓延する倦怠が乗り移ったかのようなモヤが頭にかかるのは抑えられず、それは自分の中にもある冷めた部分が反応するからかもしれません。
もしかしてこんな世の中になるのかもしれない・・・そんなリアリティを含んだ近未来ストーリー、非常に見事でした。



アカガミ
窪美澄
河出書房新社
2016-04-09



アカガミ 試し読み増量版
窪美澄
河出書房新社
2016-04-08


朝井リョウさんの作品を続けて読むことになりました。今回は「武道館」。


愛子は昔から歌って踊るのが大好き。その大好きなことを思い切り出来る場所として、ごく自然な流れでアイドルグループに加入する。そのグループ「NEXT YOU」はリーダー的存在だった杏佳の卒業により、残り5人で夢である「武道館ライブ」を目指すことになった。
5人に課せられるアイドルとしての自覚、自分が成長していくことによる悩み、不安、そして心ないバッシング、スキャンダル。それぞれが抱える悩みとは裏腹にNEXT YOUは国民的なアイドルグループに成長しつつあり、愛子たちは自分たちが置かれている状況に次第に疑問を抱くようになる。


アイドルの話というのは何となくわかっていましたが、朝井さんが細かくアイドルの裏側を見聞きし、そこに妄想や想像を入れて膨らませたのだろうなと思えるほどに、客席から見るのではなく、まるで自分が舞台側から見ているような気分にさせられるお話でした。

アイドルになりたい!10代前半に純粋な気持ちで目指した場所に立ち、必死でそれに食らいついてきた女の子たち。知名度が上がるにつれて、注文度も高くなり、そこにはファンばかりではなくただ誹謗中傷を書き連ねるその他大勢もついて回るようになる。

これが本当にやりたかったことなのか。

青春の楽しみをほぼ捨て去って、求められるキャラクターそしてそこに自分らしさを混ぜながら、必死で生き残ることを考え出す10代後半。
20歳になればできることも増えるし、知名度が上がれば求められることもだんだん多くなってくる。

ただ、本当にこれでいいのか。

愛子は高校卒業をする時に、大学進学という選択肢がアイドルと共存しないことに疑問を感じる。こんな風にして一つ一つのことを「自分で選んだ」と実感できなくなってどのくらい経つだろう。
自分はただ、歌って踊りたい、それだけだったのに。

ただのアイドル小説というわけではなくて、ごく普通に学生生活を営めない青春真っ只中の女の子が何を考え何を思うのか、リアルに伝わってくる本作。前半ではアイドルになったメンバーたちを観客席で見ているのに、いつの間にかスポットが当たり左右にはそのメンバーたちがいるような気分にさせられました。
舞台の上は楽しく高揚できる場でもあり、過酷で辛くて厳しい場所でもある。

幼い頃から夢を叶え、それに向かってだけ進めばいいなんて、羨ましく素晴らしい世界なのだろうなと思っていたのに、変化していく自分とその世界が折り合わなくなったらそれほど辛いことはない。

朝井さんの作品には独特の匂いがあり、それが強くも弱くもなくとても心地良い。この作品も例外なく、すっと読めて、考えさせられます。
それにしてもよくわかるなぁ、女の子の考えることが。

武道館
朝井 リョウ
文藝春秋
2015-04-24

 

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