朝井リョウ著「ままならないから私とあなた」を読みました。
表題作ほか一篇を含む2作品で構成された本作。実は表題作でない「レンタル世界」の方が好きな作品でした。
「レンタル世界」
俺は同僚の結婚式で見かけてから気になっていた美人の女の子に偶然再会する。偶然の幸運に浸る間もなく俺は違和感を感じた。彼女はあの時会った女性と外見は全く一緒だけれどイメージが違う・・・そのズレの意味を知ってしまった俺は、自分が抱く友情や人との繋がりと全く違う価値観を持った彼女を何とか諭そう、自分の方の世界に引き入れようと躍起になるが・・・
体育会系で、何でもさらけ出してうまく人との距離を縮めてきた俺は、希薄な人間関係はダメだと信じている。ただ偶然興味を抱いてしまった女が、俺の考える理想の人間関係のことを信用していないことに焦りを感じ、何とかその素晴らしさを説こうと必死になる。
どんなラストに向かっているのか、ジリジリしながらも両者の主張がわからないでもない気持ちを抱えていましたが、何ともうまくストンと腑に落ちるようになっています。ただ単純な男の友情とやらが羨ましくないわけではないけれど、そんな一筋縄ではいかない人の裏側を最後の最後で覗かされ気まずい感情と冷静に判断しようとする理性の間で妙な心地よさが感じられた作品でした。
「ままならないから私とあなた」
無駄なものが嫌いな薫、自分だけというものが欲しい私。なぜか気が合っていつも一緒にいて、その友情はふとした違和感に負けることなく続いていた。
薫はどんどん無駄を排除し、学校でも浮いた存在ではあったけれど、その天才的な発想力と頭脳を持ってどんどん高みに上っていく。
一方、憧れのアーティストのようになりたい、あんな風に唯一無二の存在になりたいと思う私は、思うまま音楽科に進み、好きな男の子もできてごく普通に年を重ねていく。
ただいつしか私に芽生えていた薫に対する違和感。それは口に出せないまま、友情という名前に覆い隠されてきたけれど、そのまっすぐな情熱が私に向けられた時最大の危機が訪れる。
主人公たちが小学生、中学、高校と年を重ね、それは現在を追い越す形で大人に成長していく。
近未来では、薫の予想した通りに無駄はどんどん省かれ、便利な世の中にはなっていたけれど、私はそれだけの世界は味気ないと危機感を持つ。
薫の言うように、いつでも時代の先駆者には批判や論争が巻き起こるけれど、やがて人々はそれが普通になっていくと受け入れるようになる。先導していくものは傷だらけになりながら正しいと信じて突き進んでいく。薫を思うとき、何となくホリエモンさんを思い出してしまいました。
もしかして正しいのかもしれない。人との関係も最初から正解と思われる方向にだけ向かえば、無駄はないのかもしれない。
ただ、それでいいのか。
その違和感は説明できないものだけれど、味気ないという曖昧な表現でもやっぱり感じてしまうズレ。
うまい正解が見当たらない結末は、決して望んだ形ではないのだけれど、それでも今後私と薫との関係性に一石を投じるだろうことが予測されました。
両方のお話に通じるのは「自分とは違う価値観を何とか変えようとする」熱い気持ち。
そんなのほっとけばと思えてきますが、主人公たちは好きだから、わかってほしいから、ことさら熱い情熱をそこに注ごうとします。
見えなくなっても、迷っても、自分のことだから、あの子のことだからそのままにはできない。
人が人を動かすものは一体何か。改めて考えさせられる作品でした。
朝井リョウさんの革新的な思考と、それを丁寧に主人公に寄り添って描いていくという手法はすごく心地良いです。才能ある人ってこう言うことなんだろうな。
表題作ほか一篇を含む2作品で構成された本作。実は表題作でない「レンタル世界」の方が好きな作品でした。
「レンタル世界」
俺は同僚の結婚式で見かけてから気になっていた美人の女の子に偶然再会する。偶然の幸運に浸る間もなく俺は違和感を感じた。彼女はあの時会った女性と外見は全く一緒だけれどイメージが違う・・・そのズレの意味を知ってしまった俺は、自分が抱く友情や人との繋がりと全く違う価値観を持った彼女を何とか諭そう、自分の方の世界に引き入れようと躍起になるが・・・
体育会系で、何でもさらけ出してうまく人との距離を縮めてきた俺は、希薄な人間関係はダメだと信じている。ただ偶然興味を抱いてしまった女が、俺の考える理想の人間関係のことを信用していないことに焦りを感じ、何とかその素晴らしさを説こうと必死になる。
どんなラストに向かっているのか、ジリジリしながらも両者の主張がわからないでもない気持ちを抱えていましたが、何ともうまくストンと腑に落ちるようになっています。ただ単純な男の友情とやらが羨ましくないわけではないけれど、そんな一筋縄ではいかない人の裏側を最後の最後で覗かされ気まずい感情と冷静に判断しようとする理性の間で妙な心地よさが感じられた作品でした。
「ままならないから私とあなた」
無駄なものが嫌いな薫、自分だけというものが欲しい私。なぜか気が合っていつも一緒にいて、その友情はふとした違和感に負けることなく続いていた。
薫はどんどん無駄を排除し、学校でも浮いた存在ではあったけれど、その天才的な発想力と頭脳を持ってどんどん高みに上っていく。
一方、憧れのアーティストのようになりたい、あんな風に唯一無二の存在になりたいと思う私は、思うまま音楽科に進み、好きな男の子もできてごく普通に年を重ねていく。
ただいつしか私に芽生えていた薫に対する違和感。それは口に出せないまま、友情という名前に覆い隠されてきたけれど、そのまっすぐな情熱が私に向けられた時最大の危機が訪れる。
主人公たちが小学生、中学、高校と年を重ね、それは現在を追い越す形で大人に成長していく。
近未来では、薫の予想した通りに無駄はどんどん省かれ、便利な世の中にはなっていたけれど、私はそれだけの世界は味気ないと危機感を持つ。
薫の言うように、いつでも時代の先駆者には批判や論争が巻き起こるけれど、やがて人々はそれが普通になっていくと受け入れるようになる。先導していくものは傷だらけになりながら正しいと信じて突き進んでいく。薫を思うとき、何となくホリエモンさんを思い出してしまいました。
もしかして正しいのかもしれない。人との関係も最初から正解と思われる方向にだけ向かえば、無駄はないのかもしれない。
ただ、それでいいのか。
その違和感は説明できないものだけれど、味気ないという曖昧な表現でもやっぱり感じてしまうズレ。
うまい正解が見当たらない結末は、決して望んだ形ではないのだけれど、それでも今後私と薫との関係性に一石を投じるだろうことが予測されました。
両方のお話に通じるのは「自分とは違う価値観を何とか変えようとする」熱い気持ち。
そんなのほっとけばと思えてきますが、主人公たちは好きだから、わかってほしいから、ことさら熱い情熱をそこに注ごうとします。
見えなくなっても、迷っても、自分のことだから、あの子のことだからそのままにはできない。
人が人を動かすものは一体何か。改めて考えさせられる作品でした。
朝井リョウさんの革新的な思考と、それを丁寧に主人公に寄り添って描いていくという手法はすごく心地良いです。才能ある人ってこう言うことなんだろうな。