読後感想文〜書評show〜

フィクション大好き!こよなく本を愛するLULUがありのまま、感じたままに本を紹介します。好きな作家は、吉田修一さん、津村記久子さん。

2016年05月

有川浩さんのエッセイ「倒れる時は前のめり」を読みました。
お貸しくださいました大将!ありがとうございます。

有川浩さんは「図書館戦争シリーズ」や「県庁おもてなし課」「レインツリーの国」「植物図鑑」など著書がいくつも映画化されている有名作家。ただ、あまり人となりを存じ上げなかったので、果たしてどんな内容かなと思っていました。

様々なところで発表されたエッセイをまとめているので、デビュー直後のものから最近まで彼女が歩んできた道を振り返られるような構成になっています。
様々なところで発表しているせいか、内容でかぶるようなところもありますが、それほどそのことに対する強い思いがあるのだなぁと思いました。

特に強調されていたのが、震災を経験した側の気持ち(阪神淡路大震災を経験されたことから)、書籍を売る・買うことについての思い、自身への評価に対する思い、これらが何度か繰り返し出てきました。

そこで一番驚いたのが、有川浩さんへの評価に大変厳しいお声があるということ。
私自身は、彼女はいきなりヒット連発で現代の小説家を代表するお一人というイメージで、確かに重鎮と呼ばれる人と比べるとまだまだお若い作家という感じではありますが、書かれている話についてそこまで厳しい評価をされているとはつゆ知らずでした。ライトノベルご出身ということで、文学と言うよりはエンターテイメント性が強いゆえの批判だとの分析でありますが、だからこそこれだけ映像化を期待されるわけですし、実際にヒットしている理由であるように思えるのですが、ご本人もその辺りを気にされている表現がちらほら出てきました。

ヒットしているがゆえの苦悩であるのでしょうが、文学というジャンルには読み手にも書き手にも独特の色が根強く残っているのかなという印象です。いろんな意味で幅広く門戸を開くことが業界全体の活性化につながると思うのですが、そう思わない人もいるようで・・・今後どうなっていくかには関心があります。
そして本というものに対する熱く、強い思いがそこここに感じられ、書き手側から発信するには少々わがままな内容ではないかと危惧してしまう向きもありましたが、そこにあるのは読み手でもある一ファンからの視点が盛りこまれていて、妙に納得しました。
私も、必ず新作はハードカバーで買うと決めている作家さんがいますが、今は手軽に安価にが喜ばれる世の中ですのでなかなか難しいということなのです。ただ、エンターテイメントの中では長く楽しめ、独特の世界に浸れる読書・・・もっと読み手が増えるような工夫があれば関心のない人にも届くのかなぁと考えます。

思った以上にバリエーションに富んだ内容で、一気に読んでしまいました。有川浩さんの思いがたくさん詰まった一冊です。

・・・そして一言言いたい。「図書館戦争」の実写化は本当に本当に素晴らしいと思う!!!(実写化には結構批判があるそうなので)

倒れるときは前のめり
有川 浩
KADOKAWA/角川書店
2016-01-27




 

伊坂幸太郎著「残り全部バケーション」を読みました。

伊坂さん独特の複雑に絡み合う人間模様が、爽快なラストに向かって紡ぎ出される本作。 
さすがの伊坂節とでも言いましょうか、読んだ先から「ああ、これこれ」と言いたくなるような展開が満載です。


悪巧みの下請けとして、様々な悪事に手を染めている溝口と岡田。ある日、岡田はこのやばい裏稼業をやめて真っ当に生きたいと思うが、溝口から「適当な電話番号にメッセージをして、そいつと友達になること」をその条件として突きつけられる。友達などいない岡田はそれでも言うことを聞くと、その相手は今日まさに自身の不倫が原因で離散する家族の父親だった。面白がった家族は半ばやけくそで、岡田の誘いに乗ることになるが・・・


残り全部バケーション、とはこの岡田がなぜかドライブをすることになる「適当な電話番号の」相手である家族に「今日から無職。俺の人生、残り全部、バケーションみたいなものだし」というところから来ています。そしてこの言葉が、ラストの溝口の岡田への想いにつながっていくのです。

途中、これがどう関わっているのか・・・とわからなくなるようなこともありましたが、ちゃんとつながっていて、小説の決まり手というものがあるとしたら、見事に最後技あり!と言いたくなるようなラストでした。
ラストはあまりはっきりと描かれていません。
ただし、きっとこうだろうということが物語全体から伝わってきて、それが伊坂さんが積み上げてきたこの物語のトーンなのではないかと思いました。残りは全部バケーションだと思える人生があるとしたら、一体自分にはどんな物語が用意されているだろう。そんな風に想像すると楽しくなりました。

こういうよくできたパズルのようなお話は、時々中毒のように読みたくなります。
伊坂さんの作品はまだまだ読んでないものが多いので、また是非トライしたいものです。







 

津村記久子著「まともな家の子供はいない」を読みました。

表題のほか1作を含む2作品が収められています。


セキコは家族全員に不満を募らせながら、どうすれば顔を合わせないで平穏に過ごせるかに心を砕く中学生。ままならない現実にイラつきながらも、自分の居場所を懸命に探しさすらっていく。
ただ、セキコの周りの誰もが現状に少なからず疑問や不満を抱いて暮らしていて、家族というものについて疑問を感じるようになる。


津村さんの魅力爆発。日々の何気無いどろりとした時間が淡々と語られるのですが、平凡な中に巧みに計算された言葉遣いがなされていて、これは自分のいる世界とも溶け合って混ざり合っているという錯覚に陥ります。
家族というものの健全な空気にプレッシャーを感じながらも、今不満を募らせる自分はおかしいのではないかという不安と戦っている思春期の少女の気持ちが痛いほどに伝わってきます。
乱暴な言葉遣いや投げやりな思考からは、現代の抱える問題というよりは、青春の一コマという匂いが色濃く出されていて、不快な感じはしませんでした。
それは大人からみる世界とは違うようで似ている感覚。
燃え盛るような嫌悪感は青春特有のエネルギーだと思うと、懐かしく思えてきます。

セキコのことは、すっきり解決するわけではないけれど、とにかく前に進んでいるのだという微かな実感が胸に残るラストでした。

そして表題作の中に出てくる一人の少女のことが描かれたもう一つの作品「サバイブ」では、よりリアルに大人の世界を覗き見る子供の視点が描かれていて、また違う側面の思春期の姿を見せられます。

そのままでいい、いつかきっとその時が来る。

そんな爽やかな励ましが光る、素敵な作品でした。フィクションも難しい時代なのかもしれないけれど、健全であって無知であることの美しさをただ求めるのではなく、現実にある姿を受け入れてその中で救いを求めていく、そんなことが求められているのかもしれません。

津村さんの作品は淡々とした中にも随所にセンスある視点が垣間見え、素晴らしい作家さんだなぁとつくづく思います。次は大人の分別ある恋愛モノなんかを書いて欲しいなぁ。




 

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