読後感想文〜書評show〜

フィクション大好き!こよなく本を愛するLULUがありのまま、感じたままに本を紹介します。好きな作家は、吉田修一さん、津村記久子さん。

2016年01月

有川浩著「ストーリー・セラー」を読みました。

読書友達から読んだというメッセージが届き、「これは読書談義するためにも・・・」と手に取りましたが、何とな〜く読んだことあるような。と思ったら、前半部分だけは幾人かの作家さんが参加された短編集に収められていました。その時の私の書評がこれです 。

SideAとBにわかれている二つのお話。どちらとも「作家である妻」と「それを応援する読書好きな夫」との話になっています。

思考をすると寿命を縮めてしまう奇病を宣告された妻は、それこそが生きがいであり人生であった作家だった。 彼女を取り巻く環境と、そこでより絆を深めていく夫婦の姿を軸に、生きがいとは何か、人生とは何かを必死に考え抜くラブストーリーがSide A。
そして、Bでは会社員の顔を持つ作家である妻と渉外部に所属する愛想はいいけれど決して自分のエリアに立ち入らせない夫とが紡ぐ、嘘のような本当のような話。
 
同じ本の中でside A・Bとなっていたので、同じ出来事の夫側と妻側の視点でAとBに分かれているのかなと想像していましたが、 それは見事に裏切られ、でも完全に切り離しては語れない、非常に複雑かつ、独創性の高い物語でした。
双方とも、作家である妻と、その妻の作品をどの読者よりも愛している夫との夫婦の物語。
愛しているが故に抱える葛藤。愛されているが故に感じてしまう深い情愛と執着。そういうものが見事に二つの話で丁寧に描かれていて、有川浩さんご自身の体験も多く活かされている話なのかなと思いました。
 
自分の近くにいる人に認めてもらいたい。これは誰にも共通するごく当たり前の願望であるのに、ここに書かれている主人公によればそれだけでは徐々に飽き足りなくなる。そういう人間のわがままもきっちり表されていて、エゴを露呈することは必ずしも清々しいことばかりではないはずなのに、それを堂々とできる有川浩さんの度量の大きさを感じました。

良くも悪くもご本人に当てはめられる可能性が高いストーリー展開ではありますが、主人公に課した強さと弱さは有川さんが感じている素直な気持ちなのかもしれません。

それにしても、こんな夫だったら気持ちいいだろうなぁ。物書きのはしくれとして、応援してくれる人を堂々と欲するコトってそんなに恥ずかしいことじゃないのよね、なんて思えました。

文庫本で発売になってますので、読みやすい! 




これもなかなかの粒ぞろい!!ここから単行本になるまでのお話も、本編では垣間見ることができます。本当のことかは・・・わからない!





 

七尾与史著「表参道・リドルデンタルクリニック」を読みました。

表参道のビルの三階にある、錦織デンタルオフィスはその立地により芸能関係者も足を運ぶ、一流の歯科医院。
院長以下全てが女性スタッフで、それぞれに徹底した教育を受けているため評判も高く、美貌と腕を兼ね備えた2人の歯科医師にはファンも多い。その1人である月城この葉は優れた観察眼により、思わぬところでその能力を発揮することもある。
そこに通う患者とそれらを取り巻く三つの事件を元に、衛生士彩女(あやめ)の視点から事件解決までを綴ったミステリー。


何の気無しに読みましたが、さすが「ドS刑事」の作者さんです。エンターテイメント性が高いと言いますか、重いテーマを扱ってはいるもののとても読みやすくてぐいぐい引き込まれました。
作者の方は浜松市在住らしいです。本作にも、浜松市のことが書かれてあったのでそこでも親近感が湧きました。
ご本人も歯科医師でいらっしゃるので、歯科医院の話はお手の物なのでしょう。歯科医師ならではの視点も織り込まれていて、新しい医療モノとしてそのうち映像化されるのではないでしょうか。
そして!以前聞いた事があるんですよね・・・巨乳の歯科医または歯科衛生士は男性にとっては魅力的だという事を(笑)この物語のキーマンである月城この葉先生はその美貌とFカップとも言われる巨乳で男性からの圧倒的な支持を得ている歯科医です。ただ、彼女が人気なのは容姿だけではなく、その腕前と洞察力の高さにあるのですが、それがそのまま事件解決に活かされます。

有名演技派女優の悩みから、浮気発見、殺人未遂事件の謎解きから未解決事件の再調査まで、この葉は鋭い視点で切り込んでいきます。そこに彼女を慕う彩女が絡み合い、最後はこの葉が抱えていた永遠の宿題に至るまで鮮やかに答えを導き出していくのです。
 
名探偵の横で物語を見つめている彩女の視点から描かれることで、物語の謎が一つ一つ丁寧に解きほぐされていく印象。こんな素晴らしい先生がいる歯科医院ならば私も通ってみたい !
 
男性目線からですとまた違う見方ができるかもしれない本作。映像化したら美人でスタイル抜群の女優さんたちがこれでもかと出演することになりそうです。 

表参道・リドルデンタルクリニック
七尾 与史
実業之日本社
2015-07-09

 

馳星周著「アンタッチャブル」を読みました。

捜査一課の宮澤は勤務中に起こした事故により異動を命じられた。異動先は公安部外事三課。唯一の上司は椿警視。その類まれな才能とコネで将来を有望視されていたが、妻の浮気と離婚から頭のネジが外れ、今やアンタッチャブルな存在となっていた。 妄想すれすれの椿警視に付き合ううち、宮澤は彼の本性に翻弄されていく。 


とにかく、壮大なストーリーなのでありますが、この椿警視のキャラクターのみで突っ走っていくような展開です。
最初から、もしかしてこれは・・・という謎が散りばめられているのですが、宮澤と同じく「椿警視の本当のところ」は煙に巻かれて最後までわからない。
その中で、捜査一課にこだわる宮澤と、お荷物である宮澤を冷笑する公安部。宮澤自身の中でも対立していますが、椿のことは「警視だから」という思いだけでなく気にかけている自分にも気づく。
男臭い世界の中でそのパワーバランスに変異が生じたとしたら、心を壊したり必要以上に疑心暗鬼になったり優位に立ったり、いろいろ思うところはあろうけれど、果たして椿警視のようになるだろうか。

これは妄想なのかどうなのか。

刑事小説にしては、重要なのところが曖昧で早く先をと一気に読めます。その厚さにひるむなかれ。最後まで楽しめる要素満載のエンターテイメント小説です。 

アンタッチャブル
馳 星周
毎日新聞出版
2015-05-16

 

桂望実著「僕とおじさんの朝ごはん」を読みました。


ケータリングを生業としているバツイチの健一は、いつもどこか気の抜けたような心持ちでいて、仕事も適度にやり過ごすのが常。中身は適当なのに器用に盛り付けをすることでリピーターを増やしていた。 
そんな日々の中、偶然知り合った重い病気に苦しむ一人の少年と、にわかに囁かれている「楽に死ねる薬」の存在が健一のやる気のない日々に変化をもたらしていく。


短いセンテンスで視点が変わっていく本作。根底にあるのは、健一の「楽が一番」という考えが徐々に変化していくストーリーなのですが、様々な人を通して描かれることにより、健一の人となりがより明確に伝わってきます。
健一は離婚する時ですら、あまり感慨深い気持ちにならなかった。
ただ、そんな性分になるには相応の理由があり、まだそこから抜け出せていないのだった。
そこに風変わりな大学時代の教授とのエピソードと、たびたび楽に死ねる薬を持つ「冥土の料理人」だと思われてしまうことが絶妙に絡み合って、彼の本質に効いてくるのです。

昔から器用にこなせた料理。人に食べてもらう喜びは確かにあったはずなのに無気力な健一はそれすら忘れていた。

ふらふらと現実を漂っていた健一は、様々な人から気持ちをかけられ、導いてもらうことにより、かつての気力を取り戻していく。

題名の「朝ごはん」。最初はよくわからなかったのですが、読み終わった後でじわじわ効いてきます。
さらりと読めるのに、後にはこれまでと違う味が残る・・・そんな小説でした。


 
僕とおじさんの朝ごはん
桂 望実
中央公論新社
2015-02-24

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