読後感想文〜書評show〜

フィクション大好き!こよなく本を愛するLULUがありのまま、感じたままに本を紹介します。好きな作家は、吉田修一さん、津村記久子さん。

2015年11月

三浦しをん著「政と源」を読みました。

下町に住む、国政と源二郎。下町に住む幼馴染同士だが、その生き方は正反対。
堅実に銀行を勤め上げて定年を迎えた国政。つまみかんざし職人として一流の腕を持ちつつ飄々と日々を生きている源二郎。ただ、妻に愛想を尽かされた国政と、愛する妻に先立たれた源二郎はともに現在一人暮らしをする老齢の身分。
お互い何だかかんだ言いながらも、一番気にかけている。
ただ家族のためと働いてきた国政は、妻にも娘にも疎ましがられる一方、弟子を取った源二郎はその腕で信頼を寄せられる境遇で、国政は心中穏やかではない。

青年、壮年期をまるで違う生き方をしてきた2人が、改めて老年に差し掛かった時に適度な距離を保ちつつ寄り合って生きる姿を、ユーモアを交えて描く本作。

三浦しをんさんらしい、生活の匂いが感じられるような独特の空気が秀逸です。

決してベタベタしていないのですが、ちゃんとここぞという時に駆けつけてくれる。それは一言では言い表せない絶妙な距離感なのですが、そういう生き方というのは粋でこれからの日本には大切な繋がりなのかなと思えます。

源二郎のところに弟子入りをした今時の若者とその彼女を通し、かつての源二郎の大恋愛も描き出され、それぞれに生きてきた歴史をより身近に感じます。
さすがの展開で、最後まで飽きさせない仕掛けがそこここにありました。

映像化するなら・・・はてどんな2人になるのかな。

政と源
三浦 しをん
集英社
2013-08-26

 

米澤穂信著「満願」を読みました。

2014年このミステリーがすごい!の一位を獲得した本作。話題になってからずいぶん遅れてしまいました。

表題作「満願」を含む短編6作を収録。
警官に向かない男の、最期を語った「夜警」。死にたい人が訪れるという宿に、かつての恋人を追ってきた男が直面するある事件「死人宿」。モテるけれどろくでもない男に翻弄される女たちを描く「柘榴」。エネルギー資源確保の最前線に生きる男の息詰まる日々を描いた「万灯」。器用ゆえに何でも屋になってしまったライターが踏み込んだ危険な連続事故死の謎「関守」。かつての恩人を弁護した元苦学生の弁護士が遭遇する秘密「満願」。
これだけ書いただけでも、著者の幅広い知識がうかがわれますが、それ以上に特筆すべきは結末にこれまでの景色をそっと裏返すような仕掛けがあること。
一旦、出来事は落ち着いたように見えて、もしかしてこうだったかもと思わせる余韻を残します。

日常においても、一方から見ていただけではわからなかったことが露呈された時、ひどくショックを受けると同時に、自分の浅はかな思考に嫌気がさすことがあるのですが、そんなちょっとした誤解やすれ違いを卓越したストーリー展開でまざまざと描き出します。

衝撃のドンデン返しという派手さはないものの、じわりと心に残る、実にスマートな作品たちでした。
このミステリーがすごい!の歴史を眺めると、米澤さんは度々トップテンに名を連ねていますね・・・文章から伝わる博識さや、実力をさらりと感じるのにオススメな短編集の本作。
読み応えも十分でした。

「満願」


満願
米澤 穂信
新潮社
2014-09-12


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