読後感想文〜書評show〜

フィクション大好き!こよなく本を愛するLULUがありのまま、感じたままに本を紹介します。好きな作家は、吉田修一さん、津村記久子さん。

2015年06月


IMG_8565大好きな吉田修一さんの最新刊「森は知っている」を読みました。 

こちらは、2012年に発表された「太陽は動かない」という作品で活躍する、産業スパイ鷹野の幼少期からスパイになるまでのオハナシ。

鷹野が所属しているAN通信の裏の顔は、知り得た企業情報を一番高く売れる相手を見つけて交渉している。そこに従事するものは、一日に一度決められた時間に会社に連絡をすることが義務づけられ、それを怠れば胸に埋め込まれた小さな爆弾が爆発する。35歳の定年まで、緊縛した日々を強いられている彼らは、なぜスパイになったのか。

鷹野は、ネグレクトによって母から離れ、暴力的な父親の元に戻される前にAN通信から救われ、幼少期に新たな名前と人生を与えられた。スパイになることだけを言い聞かされ、その訓練のための青春時代を過ごす鷹野。
そこに、安穏とした幸せな未来はないのだけれど、鷹野にとって未来とは何も描けない透明なカンバス。

その日一日だけ生きろ、そしてそれを続ければいい。

その言葉を胸に、 仲間、上司、恩人、愛しい人との間で揺れ動く鷹野。その成長物語であると同時に、スパイ鷹野が誕生する瞬間を描いた本作。

前作の「太陽は動かない」は吉田さんの新境地ということと、似たような作品が同時期に割とたくさんあったこともあって、戸惑ったことを覚えています。
ただ、今作では一度馴染んだ作品のトーンであったからか、すんなり入り込めました。

産業スパイである限り、必要以上に人を信用しないし、おのれの判断で一瞬一瞬を全てコントロールしなくてはならず、緊迫した毎日を強いられることになる。 ただ鷹野にとって、未来は過去から繋がっていると思いたくない時間軸。今日は昨日ではない、過去は現在ではない。鷹野にとって過酷な幼少期がそれをなかなか消化できずにいる。
自分の人生というものが危うく、そして誰かの手によって作られた物だとしても、彼は受け容れるしかない。そうしないと、今を生きることも出来ない存在。

彼がスパイになるにあたり、失ったもの、得たもの、それぞれにあるのだけれど、決して幸福であると言えない人生が確かにそこに息づき、未来につながっているのだと思える瞬間がありました。 
おのれを信じる、その信念が確かなものとなったとき人は一回り大きくなれるのだと思います。 

池井戸潤作「銀翼のイカロス」を読みました。半沢直樹シリーズ最新刊。

帝国航空という今や資金繰りに困る巨大企業の再生に、半沢が乗り出すことになる。何度も修正された再建計画に危機感の薄い企業側。その狭間にあってなお、新政権により再建計画が白紙に戻され、独自の再生計画を押し付けられることになる。
それは銀行にとって大損失となるものだが、これまでの見通しの甘さを指摘され、新政権の項を焦るやり方に徐々に追いつめられていく半沢。策を練るうちに、それは銀行内部のとんでもないスキャンダルに辿り着こうとしていた。


相変わらずで、とにかく半沢が最初は金融庁に、新政権の大臣によって作られた再生チームに、そして自分の失脚を狙う行内の人たちに、詰め寄られ、窮地に追い込まれる。
充分に採算の取れるだろう再生計画も、新政権の思惑によって頓挫させられる。
銀行に突きつけられたのは、大きな損失をかぶれという理不尽な言い分。半沢は、その活路を見出し、銀行の損失を最小に押さえられるのか。航空会社の未来は。

貸し付けをしている航空会社の重大な局面に、あらゆる思惑が絡んで、皆が自分に利をと画策する。
その中で一人、おのれのバンカーとしての正義と理想を貫こうとする半沢に、冷たい仕打ちが次々と降り掛かる。

とにかく、最後は半沢が勝利を収めるだろう展開だと思われるのですが、今回ばかりはそうとも言えない現実がありました。
合併前の遺恨、合併してからもぎくしゃくする行内、こういったほころびが人を惑わし、狂わせる。

とにかく結末まで早くいきたくて一気に読みました。
銀行モノはともかく、政府の思惑や方向性、人間関係などが裏黒くきっちり書かれていて、非常に興味深かった。男も女も、仕事上のモヤモヤはすかっとする場面があるかもしれません。
コレ、ドラマ化するならあの人は誰だろう・・・と想像はかきたてられました(ドラマ観てないのであまり知らない・・・) 

津村記久子著「エブリシング・フロウズ」を読みました。

中学三年生になったヒロシは、クラス替えで周りのヤツらよりも大人っぽくてつかみどころのない矢澤とつるむようになる。高校受験を前に、将来について考えなくもないけれど、雑多なことがヒロシの心をゆらゆらと揺さぶってくる。高校に入学するまでの一年間を、同級生・家族・友達の家族を交えて綴った物語。


ゆるりと動いていく時間を鋭く、気怠く、そして社会的な側面も織り交ぜて描かれていて、自分がもしかして今中学生だったとしたら、記憶の中の学校生活とは全然違うものになったのだろうなと思わされました。
塾とコンビニと学校、これだけで毎日がほぼ終わってしまう。帰ってからは父親のいない家庭で母親が少々鬱陶しく、気苦労を背負い込んでいる。愛情がないわけでもなくて、不良になるわけでもない、ただどうしようもないイライラとか、理不尽さには時々負けそうになっている。

大人びた発言をするかと思えば、子供っぽい側面もある・・・そんな不確かな存在で自分で自分を持て余してしまうような感覚、それを非常に瑞々しく浮かび上がらせるのが津村さんならでは。
読みながら、自分が少しばかりあの頃の感覚に戻れるような錯覚に陥りました。

ただ、あんな不安定な時期に、携帯だとか陰湿な思惑とか、友達の家族のごちゃごちゃしたところなんかがなくて良かった・・・そんな風に思う反面、案外その時に出逢っていた事柄って今思えば何てことないのだけれど、若い感性で乗り切ってしまっていたタフな側面があったのかなと思えます。 

あの頃に戻りたい・・・とは思わないけれど、津村さんの小説を通じて少しだけタイムスリップ出来ました。こういうのって、小説の醍醐味なんだと思う。

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