読後感想文〜書評show〜

フィクション大好き!こよなく本を愛するLULUがありのまま、感じたままに本を紹介します。好きな作家は、吉田修一さん、津村記久子さん。

2015年05月

西炯子さんの漫画「姉の結婚」を読みました。読書仲間のKさん、ありがとう!!!

とにかくもう一気に読んじゃいました!!
8巻完結なのですが、もう次が気になって気になって。

ヨリは40歳を目前にした図書館司書。様々なことに疲れ東京を離れて、故郷に戻ってきていた。
恋とか愛とか結婚とか女とか、いろいろなものに疲弊していた彼女は、地味で仕事のデキる近寄り難い女になっていた。
一人暮らしのアパートに女子力が高い妹が転がり込み、目の前にはヨリのことを学生時代から想い続けていたというイケメンドクターが現れて、彼女の生活は一変。 魅力的な彼はすでに結婚しているが関係を持ってしまったことで、不倫という大人の関係として割り切ることにした。ただ、ヨリは気持ちの拠り所がわからなくなってしまい、落ち着きたいという願望からはかけ離れ、心が休まらない日々を送ることになる。

ヨリに言いよってくる、真木という男は学生時代はデブで冴えない男だったのだが、大人になった彼はイケメンになっていて、ずっとその頃から自分のことを想ってくれていた・・・・なんてそんな夢の展開あるかー!と想いつつ、すごく夢中になって読んでしまいました。

ヨリは仕事でも評価されているし、一通りの恋も経験した大人の女であるのに、なぜか自分には自信が持てない。持てないというよりも、マイナス思考が先にきてしまい、自分の気持ちを解き放つことができないでいる。傷つきたくない、もう乱されたくない、その一心で将来を見据えて選択していこうとするのに、いつもそれが裏目に出てしまう。

なぜなんだろう。どうしてわたしには手に入らないのだろう。

前向きな自分、変わろうとしている自分、そのときどきで評価してくれる男性は現れるのに、幸せは手に入らない。そのもどかしさとともに、それぞれの事情がわかるだけに非常に苦しいお話でもありました。
誰もが別に不幸になろうとしているわけでもないし、人を傷つけようと想っているわけではない。なのに、幸せになればなろうとするほどそこから遠ざかっていく。

とても面白い本でしたし、舞台となっている中崎県というのは、長崎県のことだろうと思われ、随所に散りばめられた長崎弁がとても心にすっと入ってきて、余計に愛着が湧きました。数年前に他界した祖父母が住んでいた長崎。また行きたいなぁ。 

東野圭吾著「虚ろな十字架」を読みました。東野作品は大半が読書仲間のKちゃんが貸してくれます。ありがとう!!

中原はある日、刑事の訪問を受けた。離婚した元妻が何者かに殺されたらしいと言う。
「もし離婚していなければ、私はまた遺族になるところだった」という彼は、辛い過去を背負っていた。
罪を犯したものではなく、被害者遺族のその後の人生や心情に迫る、ヒューマンミステリー。


もう圧倒的な迫力のストーリー展開、全然読む手が止まらずに一気に最後まで読み切りました。
私などが軽々しく口にできるはずもない、犯罪とその周囲の人々の気持ち。
ある者は、心静かに日々を送りたいと願い、ある者は贖罪の気持ちを一日も忘れずに日々を過ごし、ある者は自分の経験を活かし前に進もうとしていた。
その誰もが、楽になりたい、楽にしてあげたいと願うのだけれど、その願いが一度掛け違ってしまったら。

罪を犯したら逮捕され、法のもとで裁かれて償う。この一連の流れの中に、様々な人の願いや想いや理想があって、全てを納得させる結末は決してない。
その重みを受け止められず、すごく複雑な気持ちで読み終えました。本作を描くにあたってどういう取材をされたのかわかりませんが、丁寧に人々の気持ちを描ききった作品になっているのではないでしょうか。

でもやはり、私には非常に難しいテーマでした。

池井戸潤著「ようこそ、わが家へ」を読みました。これも読書仲間Kちゃんから借りました。

ご存知、現在月9でドラマ放映中の原作。いきなりのっけからびっくりしたのですが、ドラマでは倉田健太という一家の長男が主人公なのですが、小説ではその父親(ドラマでは寺尾聡)が主人公なんですねまぁ確かに月9にするには、おじさまが主人公では・・・と思ったのかもしれませんが、それだけでも大分印象が変わります。

真面目が取り柄の会社員倉田太一はある日、柄にも無く駅のホームで割り込みをした男を注意する。その男につけられている気がした倉田は、何とか振り切って帰宅したと思ったのだがその翌朝からその男と思われる様々な悪戯が続くようになる。ストーカーのように家をつけねらう謎の男と対峙するため、一家は団結し知恵を出し合う。


このストーカー事件と並行して、倉田が出向する会社での不正疑惑についての追求というストーリーも展開していき、このあたりは池井戸さんらしい企業モノの様相を呈しています。
何かのきっかけで、嫌がらせが続くようになる我が家。誰もが得体の知れない不気味さに恐れを感じ、同時に憤りも感じる。
長男健太は、相手はゲームのように人を怖がらせて面白がっていると言うが、現代では個人情報の壁にも阻まれ、こういった一般的に軽微に見られがちな罪というものに立ち向かう術がないのだなとしみじみと感じました。
匿名だからこそ大胆になれる、顔を見られないと思うからこそ普段の自分とはかけ離れたことが出来る。
その恐さを、一般的な家庭を通して描くことで、リアルに感じさせられました。

倉田は、ごく普通のというよりも普通よりも及び腰の弱気な会社員で、銀行からの出向という1人よそ者の空気を感じ取って大人しく日々を過ごしている。波風立てなければ、受け容れられれば・・・と機嫌を伺う自分に嫌気がさし、ストーカーと対峙してくにつれ逞しさが増してきます。

爽快な最後というよりは、胸にひっそりと「ひと事ではない」気持ちを置いていく、そんなオハナシでした。 

それにしても、小説の中の健太は結構要領が良くて、逞しく無鉄砲な、若者らしい男の子です。相葉くんとはちょっとイメージが違うなぁ・・・ 

湊かなえ著「花の鎖」を読みました。

たった一人の家族である祖母が手術が必要だと言われているが、自身も無職になり落ち込む梨花。結婚したものの子供に恵まれず鬱々としている美雪。彼女の心の支えは前向きな努力家である夫だった。和菓子屋でアルバイトをしている駆け出しのイラストレーター紗月。母親との2人暮らしだが、最近結婚のことをうるさく言うようになった母親が鬱陶しい。
三人の女性のそれぞれの事情と彼女たちを取り巻く運命。その中に「K」という謎の男性も絡み、事態は複雑な方向へ転がっていくのだった。

「K」という謎の男性の存在が明かされたときに、「Nのために」を思い出し、アルファベットにまつわるハナシを連作で書いているのだろうか・・・と思いましたが、全体的には複雑に絡んだ糸をほどきながら読んでいるようで、途中でこんがらがりながら何とかゴールまで辿り着いた、とそういう感じです。

失った家族のことを想い、日々明かせない秘密を抱えながら生きる人々の強さと逞しさを感じられる本作。とくに女性の生き方ということにおいては、独特の凛とした風格がありました。

湊さんの作品は、あまり多くを読んだことはないのですが、これはどちらかというと映像に向いた作品なのではないかと思います。
登場人物が自分の中で、あまりはっきり区別されていないうちにどんどんと新事実が発覚していくので、追いつくのに必死でした。
なかなか高度なテクニックが必要です。

途中で休みつつというよりは、一気に最後まで読むことをオススメします。少し目を離すと、自分の中にあった物語の相関図がほころんできてしまうと思います。

ということで、これは一気に読んでしまいました。
謎の男の「K」がなぜそういうことをしているのか・・・ということが明かされますが、非常に明快でどのエピソードにも無理や不可解なところがないのはさすが。そういう意味では、湊さんの繊細な魅力を感じられる作品だと思います。 

東野圭吾著「マスカレード・イブ」を読みました。いつも本を貸してくれる、読書仲間のKちゃん。ありがとう!!

「マスカレードホテル」以前の物語ということで、のちに一緒に難事件を解決する刑事新田とフロントクラークの尚美はまだ出逢いません。

ただ、交互に出てくるそれぞれの物語には2人の仕事に対する熱意や性格が滲み出ていて、これを読むとまたマスカレードホテルが読みたくなってしまいます。

ただ、フロントクラークの尚美サイドのオハナシは、ホテルが舞台なので物騒な事件というよりは、ホテルで起こるアクシデントを尚美の持つ独特の勘と好奇心によって解決に導いていくという展開が主です。
ホテルの顔と言うべき存在であり、無理難題を言いつけられてもそれを嫌な顔ひとつせずさばいていく仕事。尚美は仕事に誇りを持っており、叩き込まれたホテルマンとしてあるべき姿を全うしようと最善を尽くす。

いっぽう新田は、アメリカ帰りのエリートで自宅も裕福、ただ両親の反対を押し切って刑事になったという男。ただ、勘が鋭く頭の回転が速いため、難事件を独特の感性で解決に導いていく。

2人がそれぞれの仕事に取り組んでいる話ののちに、ある殺人事件の捜査で微妙に2人が関わることになり、物語は終わります。
この微妙にというのがミソで、直接会っているわけではなく人を介し、場所も尚美がたまたま新人研修で出向いていた大阪のホテルとなっているために、のちに出逢ったときもこのことが話題になることはないのですが、すでに2人はこの時点で少なからずタッグを組んでいたというオシャレな演出がされていました。

ん〜やっぱり、またマスカレードホテルが読みたくなってしまったな〜。
さすが東野圭吾さん、これも一気に読んでしまいました。 

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