読後感想文〜書評show〜

フィクション大好き!こよなく本を愛するLULUがありのまま、感じたままに本を紹介します。好きな作家は、吉田修一さん、津村記久子さん。

2015年04月

奥田英朗さんの作品は、割と救いがないものが多いので、元気な時にしか読めません

〜ストーリー〜
本城町。いつもつるんでいる不良仲間の3人。オヤジ狩りをしていたところ、運悪く九野警部補と出くわしてしまう。九野は気の進まない任務を遂行している最中で機嫌が悪かった。
そんな折り、とある会社で放火事件とおぼしき火事が発生する。
そこの会社の社員で、第一発見者でもある及川。その妻はパート勤めをするごく平凡な主婦。
どこにでもある、ありきたりな人間関係。その日常がゆっくりと壊れ始めていた。


奥田ワールド全開。ごく普通の平凡な人々が、ひょんなことから犯罪や思いも寄らない出来事に遭遇し、巻き込まれ、あっけなく日常から乖離させられていく。その様が実にじっくりとリアルに描かれている本作。
不良3人と警察、ヤクザと警察、警察と及川一家、それぞれが絡み合い、接近し、そして関わっていく。

以前読んだ小説の中で、主人公が感じたいわれも得ぬ幸福のことを"全能感"と表現していました。でもこれは人が最も絶望的、または今絶望に向かっているとはっきり感じ取ったときに感じることは何かを存分に感じさせてくれます。
及川の妻恭子は、ふとした疑念を追い払おうと自分の描く理想の家族像、理想の家に逃げ込もうと必死で思いを巡らせる。それはもう切望としか言いようのない事実。パート主婦として何ら人と変わる事のない平凡な、時として退屈とすら感じていた日常の中、一度は全て手にしたものがゆっくりとこぼれおちていったとしたら・・・どうやってそれをとどめることが出来るのか。

人が幸せだと感じる物差しは、それぞれ個人にしかなく、決して他人にはわからないものだけれど、それでも人はそれに固執し、その中でバランスを保とうと思う。

もし、自分がその状況になったとしたらどうか。本当に冷静な目で「それは違うんじゃない?」という判断を下せるのか。いくら考えても、答えは出ませんでした。
長編ゆえに、どっと疲れが押し寄せました。登場人物とともに、物語の中を疾走した・・・そんな読後感の残る小説でした。

こちら、以前NHKで連続ドラマ化されました。戸田恵梨香さん主演、高良信吾くんのミステリアスな演技が光っていました。

〜ストーリー〜
書店員のミチルは、ひょんなことから生まれ故郷を離れ、上京することになる。故郷に置いてきたもの、同僚・親友・家族・そして恋人。ただ、東京にはミチルのもう一人の恋人と、幼なじみの歳下の男の子がいた。
すぐに帰るつもりが、人から頼まれて買った宝くじのうちの一枚が高額当選をしていたことがきっかけで、少しずつ歯車が狂い始める。


ミチルの夫だと名乗る男が語る、ミチルが上京してからの身の上話。
その話は、壮絶なんだけれどどこか浮世離れしていて、もしかしてリアリティのない世界にとらえどころのない女ミチルとともに迷いこんでしまったのかと勘違いしてしまうほど。

その、宝くじが当たったあたりのくだりは、誰もが夢想し、思い描いている程度の驚愕と喜びと疑いに襲われてしまうのですが、それがちょっと常軌を逸すあたりからもしかして本当の正念場は当たった後、自分のみならず周囲によってもたらされるのかもしれない・・・と空恐ろしくなったほどです。

誰もが夢見る高額当選。誰もが当たったら・・・と思いを巡らせ、浮き足だった自分を思い、だからこそ「いや、それでもワタシはちゃんと先々を見据えられる。よく聞く話でもあるし」と安心しているに違いないのですが、当たったときの身の置き場の無さといったらそれはそれは空想を絶するのかもしれませんし、案外当選したらしたで、幸せで平凡な日々をみすみす逃してしまうことになるのかもしれません。

人には抱えられるほどの痛みや秘密の量が決まっていて、案外人はそれをわかった上で少しずつガス抜きをしながら暮らしている。ただ、その量があまりにも大きすぎて一度にやってくると、自分ですらも見失って埋もれてしまうのだろうか。
ミチルは背中に背負ったリュックにそれを入れようとします。いや、すっかり入れたつもりになっていました。
ただ、現実は果たしてどうだったのか。その答えは小説の中にある、のかも。

バラエティにも時々出てくる西村さん。今作では芥川賞を受賞しましたが、飾らない(と言えばいいのか)人柄がそのまま小説の世界に生きているような、そんな物語です。今作は、さらっとすぐに読めました。

〜ストーリー〜
19歳の北町貫多は、父親の性犯罪がもとで家族崩壊。1人暮らしの安アパートで日雇いの仕事に行くか行かないかをタバコをふかしながら考えあぐねるような毎日。日雇いで稼いだお金は飲み代と風俗に消えていく。家賃を払えず飛び出した部屋もいくつになるか知れないような日々。
そこへ、大学生の日下部が日雇いのアルバイトをしにやってきて貫多に親しげな笑顔を向けてくる。貫多にとっては久しぶりに言葉を交わし、心を開ける相手となったのだが、元来大学にも行き家庭にも問題のない彼とは次第にズレが生じてくる。


主人公が本当にどうしようもないオハナシなんです。
もう逆に清々しいほどに自己中心的で自分勝手。小心者のクセに虚勢を張ったら止まらない、口から飛び出た言葉を取り繕う術もなく、へいこらと首をすくめてやり過ごすしか手だてがない。

ただ、人間の内側にある欲望や、他人をののしり独りごちる言葉は、それはそれは他人に聞かせられるわけのない、醜いものに違いないのですが、案外人の内側に渦巻くものはこんなもので、それを単純に露にしただけかもしれません。

コンプレックスに感じていること、苦い体験、それらをさっぱり忘れて生きていくことなど不可能ですし、いい意味でも悪い意味でも人はそれに縛られて人生という旅をひたすらに進んでいくしかない。
そこに訪れるのは、一抹の不安、不幸への畏れ、転落という落とし穴の見えない威圧感。それを充分に意識しながら、おのれの幸せをただひたすらに祈って生きる。
そこに努力ややり遂げた充足感があれば、ずっと心穏やかに行きていけるし自分を信用できるのかもしれませんが、まだまだできるのではないか、どうしてもやり遂げられないことへの不信感は知らないうちに自分の心を蝕んでいる。
どんな世代にも、男女関係なくこういう焦りは訪れるものだと思います。それに存分に浸りきって、「さ、頑張ろ」とすっと思えました。

文庫本では、石原慎太郎さんの解説がありましたが、これも一読の価値ありです。

池井戸作品は、続けて読むとちょっと飽きてきちゃうのですが、知識が深い方なのだろうなというストーリー展開が魅力です。

この話は、下町のおじさまがロケットを造るとかいう話なのかな・・・と誤解してまして、男くさい話なのかと思いながら読み進めましたが、予想と違い情熱と意欲に満ちあふれていて、読んでて気持ちよいオハナシでした。

〜ストーリー〜
佃製作所の社長は、元宇宙化学開発機構の研究員。ロケット打ち上げ失敗による引責もあり現役を退いたことで、父親の会社を継ぐことにし、業績を伸ばしていた。
ただ、中小企業への世間の風当たりは強く、契約打ち切り、訴訟問題・・・と問題は山積していき、ついには倒産という文字もちらつき始める。
その中でも、自社ブランド、自社品質に自信を持つ佃は、社員からも反感を買うような研究開発に巨額を投じ、ついにはそれで取得した特許を巡り、超一流企業のロケット事業に参加できる希望が出てくる。
佃は研究者魂がうずき、やがてそれは全社員のプライドを賭けた大きなプロジェクトになっていく。


もう爽快です。中小企業に勤める社員たち。給料も一流企業に比べたら安いけれど、自分たちのブランドと技術には誇りと自信を持っている。
会社が危機に直面しているというのに、夢を叶えようと意地を張る社長に反感を持ちながらもそのプライドを刺激されて大きなプロジェクトに賭けようという気持ちになっていく。

決して夢ばかりを語るのではなく、そして現実の苦さばかりが胸を押しつぶすでもなく、絶妙なタイミングでいいことも悪いこともやってきます。荒波に揉まれる舟のように、会社は風雨に煽られ右往左往する。

決して良好とは言えない環境の中で、一度手放した夢を再び叶えるチャンスがやってくる。今やるべきことか分からないけれど、このチャンスは今しかない。
悩んだとしても、自分にとって理想的な結末があるのならば、それに没頭したい。

窮地においやられる企業と銀行とのやりとり、特許出願に四苦八苦する企業たち、すごく詳細に、分かりやすく描かれていて、勉強にもなります。

そうだよな。自分が誇りを持てる会社で、自信に満ちた仕事をする。そうできれば本当に幸せなんだろうな。

津村さんも大好きな作家さんです。
この本は、大きく分けて「職場の作法」と、「とにかくうちに帰ります」の二本立てですが、そのうちの「職場の作法」はさらに5つほどの話にわかれています。

もう、とにかく面白い。小説読んで声に出して笑っちゃったのは久しぶりではないでしょうか。
 
〜ストーリー〜
とある小さな中小企業とおぼしき会社で働くワタシ、鳥飼。同僚の、きっちり時間管理をして自分の世界を守る落ち着きのある田上さんと、ちょっとマイナーな世界に詳しかったりする優しい独身の先輩浄之内さん2人に囲まれて、どうしようもなかったりする上司や、仕方ないなぁって感じの後輩たちに囲まれたフロアの中の些細なオハナシたち。
 

話は淡々と繰り広げられていくのだけれど、その「淡々」が半端ない「淡々」なのです。
中でも「ブラックホール」というオハナシが、"あるある!こういうことあるよ~"と大きく頷けたと思ったら、後半「やられた~」と爆笑。
もう何てことないのですが、会社員ならば誰しも「あぁ、コレコレ」と思えるのではないでしょうか。
そして、秀逸なのが"バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ"。この題名だけで「何のこっちゃ」ですが、期待を裏切らないテンションで話は進んでいきます。マイナーな世界に、とくに深くもなく首を突っ込んでしまう感覚が、とてもバカバカしくて良い!そして身に覚えがあるよ~こういうことって!と思わず笑っちゃう。

「とにかくうちに帰ります」のほうが笑いは少なめですが、どうしようもない状況で人が消耗していく様は、何だか胸に迫る。そんなとき、優しくできるのかなぁ、自分・・・とふと考えたりして。

津村さんの作品はセンスの良さといいますか、好みに合うと言いますか、すごく面白いので大好きです。
何とも言えない世界観にココロを鷲掴みにされています!また別の本もおいおい紹介していきますね。

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