読後感想文〜書評show〜

フィクション大好き!こよなく本を愛するLULUがありのまま、感じたままに本を紹介します。好きな作家は、吉田修一さん、津村記久子さん。

2015年04月

〜ストーリー〜
莢子は、派遣社員の32歳。過去に恋愛に急ぎ過ぎたトラウマから、今付き合って2年の、真面目で勉強熱心な彼氏との間は大事にしたいと思っている。ある日、ふとした疑惑が持ち上がり勇気を出して彼に不安を打ち明けた莢子だったが、思いも寄らなかった事態に揺れ惑う。


莢子はとくに正社員を希望しているわけではなく、ささやかな幸せを掴みたいとだけ願う、ごく普通の女性。職場の人間関係も割と良好で、程よい距離感を保ちつつ、ときに相談したり軽口を叩いたりし合う仲間もいる。立場や環境、悩みまでもがバラバラだけど、同じ職場にいる連帯感もあり、莢子はようやく自分の不安を口にすることができるが、それに対する答えもそれぞれ。

人が、悩み、考え、そして他の人にもその悩みを打ち明ける。どこにでもある日常風景なのですが、そこに答える人たちの背景、その人独特の経験に基づくアドバイス、そういうものが絡み合って、相談する人される人に何らかの跡を残すものだと思います。もちろん相談する人の中にも答えがあって、それと照らし合わせて答えをどこに導き出すのか。

人が人と接していく上で、その人の生い立ちや過去というのは現在のその人と深い関わりがあるものだということを痛切に感じました。それがどの程度自分に関わってくるのか、それはその人との今後の付き合い方にも影響してくる。
決して全てハッピーという結末ではなかったけれど、莢子はこれからの人生で、今回のことを乗り越えた自信に少しは助けられるのかなと思いました。

〜ストーリー〜
70代にして現役のマタニティスイミングの指導者晶子。3月11日の震災の日、気になる生徒の1人を尋ねる。あまり他の妊婦とも、晶子とも関わりたがらなかった真菜。
彼女は有名料理研究家の娘だったが、母親とは断絶しており、今は関わりを持たない男の子供を産もうとしていた。
どうしようもなく絶望的なこの世の中に生を受けた子供、おびえる母親、未来に希望はないように思えた。


晶子は戦争を生き抜いていて、日本が敗れ、食べることにも困る貧困の世の中を見てきた。
晶子は思う。戦後に自分たちが望んで望んで、手に入れたいと心から思ってきた現代の姿は、入れ違いに何かをぼろぼろと落としている気がする。
そして、おせっかいかと手をこまねいたことから起きた過去の事について深く後悔している。

そしておせっかいな晶子をどうして良いのかわからず戸惑うばかりの真菜。
1999年に地球が滅亡し、何もかもなくなると思っていた彼女は、何も変わらなかった世の中に全く希望が持てないでいた。そんなときに3.11が起き、放射能汚染という新たな絶望が彼女を襲う。99年に終わらなかった地球は、明らかに破綻に向かっている。

地球は終わっているのだろうか。プライバシーの確立された世界は、本当に絶望的なのだろうか。

子供を持つ女性が今、ひどい孤独に陥ることがある。彼女たちはどうして良いかわからず、ただ他人の助けを拒み続け自分を追いつめる。
どうして良いのかわからなくて、でも何がして欲しいかわからない・・・本当に助けを待っている人は、助けてと言えない人なのかもしれない。
どうということもない他人が交わり、微かな絆を紡いで行く。その姿は頼もしくて、安心する。
もしかしたら、こじれた家族よりも、何の利害もない他人のほうが気が楽ということがあるのかもしれない。

2人の、世代の違う人生があるきっかけで交錯する、読みごたえのある一冊でした。

著者自身の派遣社員としての生活からヒントを得たと言われていた表題作「スタッキング可能」他短編が収められている本作。
 
「スタッキング可能」では、会社という組織の中にいる集合体の中から数人単位で切り取って心の声や対外的な態度や職場という場所だけの顔など、会社員ならば誰しも誰かになれるのではないかという人々の物語です。
職場の人間関係というのは、毎日顔を合わせて非常に長い時間を共有し、会社組織というある意味同じゴールに向かってみんなそれぞれに自分を殺したり活かしたりして存在しているわけなのですが、それは本当に会社員にしかない世界で、同じ集合体でも寸前まで所属していた学生の輪とは全く異なる世界なのだという、すっかり忘れてしまっていたことを思い出させてくれました。
ここでは結構読書がオススメであることを強調されているような感じたのはワタシだけでしょうか。

他の短編も、ある意味普通のことや常識であることを、独特の視点で切り取ってすくい出している、彼女ならではの感性が光るものばかりでした。
すこーし、本谷有希子さんに似た感じかなという、独特の頭の回転を感じましたが、もう少し読みやすくて、内容も取っ付きやすいです。

するすると読めてしまったあたり、文章のテンポに彼女なりの計算があるのかもしれません。独創的であるわりには、偏屈さを感じないセンスは、他の作品も期待できます。

"貨幣は鋳造された自由である"とドストエフスキーは言ったのだそうだ。
我々人間というものは、カネを遣うとき、銭を消費するとき、まさに解放されるのだと言う。
角田光代著「紙の月」では、お金に翻弄される女性の心理を鋭く言い当てられた気分になり、いささか意気消沈していたワタシなのですが、そこへきてこの本に出逢うという奇蹟!
ビバワタシ!

などということを大真面目に訴えたくなるような本作。主人公の50に手が届こうという男が身悶えし、苦悩し、回り回って自画自賛、ランラララ踊る姿が何とも滑稽なんです。

主人公の男は、いい歳したおじさんなのですが、ちっとも成熟しておらず不惑なんてどこ吹く風。
仕事や人間関係のストレスで溜め込んだ我が鬱を、日々貨幣に計り換えて過ごす独り者。

鬱を晴らすには、カネを消費するのが一番だ。

だからこそ、たくさんお金を稼ごうと思ったら、あら不思議、それを解消する分の銭が鬱解消と称して消えていく。繰り返される鬱を解消するには同等かあるいはそれを超えるお金をまた稼がねばならない。

なるほど。
確かに、仕事をしていると特に、自分の力ではどうしようもないことがあまりにもあり過ぎて、愚痴を言っては飲み、嫌なことがあったと言ってはエステで解消。こりゃ美味しいものでも食べなきゃやっとれん!とフルコースを予約する・・・確かに解消するための消費は、鬱が貯まると飛躍的な伸びを見せていく。このどうしようもない人間のスパイラルをからっと言い当てられる気持ち良さ。

そして、それを上回る滑稽さで、鬱を晴らしてくれるこの文体とリズム。もう笑いなしでは読み進められない、そこはかとないオトナのバカバカしさに満ちています。
主人公は、悩みに悩みます。そして導かれる答えがあまりに面白い方向に転がっていくので、思わず「あちゃー、そうきたか!」と頭を抱えてしまうんです。
痛快かつ憂いのある生き様は、読むものを時には唖然とさせ、ときにはクスリとさせ、最後まで飽きさせません。

それにしても、ISO感度を聞きかじった主人公が何を思ったか、頭の中でへんてこ変換しちゃうんです。
あ、そうか・・・確かに。耳で聞いた言葉って、こんな感じなのだろうなーと妙に感動。

いやぁ、歳を取ってもこんなふうに日々を、愛嬌ある哀しさに満ち満ちていられるのならば、それも悪くない。
何でもかんでも貯めすぎず、これからもう少し、自分の嫌なことについて向き合おうと思う。

ドラマ化もされ、後に宮沢りえさん主演で映画化もされました。それだけ、魅力的なお話なのだと思います。
角田さんの作品は、女性心がありありと表現され過ぎていて読んでいて苦しくなります。こちらも女の生き様を考えさせられる作品で、最後まで一気に読みました。
 
〜ストーリー〜
梅澤梨花という銀行で働く女性が横領を働いた。金額にして1億円。
なぜ彼女はそんな不貞を働くに至ったのか・・・彼女の同級生たちは一様にして驚きを隠せない。あの彼女が、なぜ。 


もう本当に人ごとでは済まされない、リアルな女性の、そして今を生きる私たちの物語がここにありました。
梨花という女性は、ごく普通のありきたりな日々を送る専業主婦だった。夫との生活に何となく行き詰まりを感じ、環境を変えるためにも、と働きに出ることにする。
平凡な女性のどこにでもあるハナシ、ちょっと自分で稼いだお金が嬉しくて、そのことに大して少しご褒美をもらいたくて。
そういう気持ちというのは、女性が誰しも考えることですし、働いているからこそ「ちょっとぐらいの贅沢いいじゃないの」とエステやちょっと高いディナーなんかを食べに行く。
それは、たぶん誰しもが「自分の給料の範囲内でどう楽しもうと勝手」と思っているだろうし、そのうちで納まっている時は何てことない、普通の暮らし。
でもその稼いだお金の範囲からほんの少しはみ出るようなアクシデントがあったとしたら。

梨花は、出逢った人々によって自分は何でもできると感じる瞬間を得ます。そのことが、彼女をある意味追いつめ、そして快感へと導いていく。
もし、何もかも忘れて、思い切り自分の思う通りに過ごせたなら・・・それは自由でもあり、束縛でもある。その覚悟は自分にあるのか。

自分のお金に対する気持ちを、モノの見事に言い当てられたような、あなただって彼女みたいになり得ますよと耳元で囁かれたような、ぞっとする重苦しい空気がいつまでも心の中に留まっていました。

さすが角田さん、女性のどうしようもない性のようなものを表出させ、その赤々とした傷口をずっと見せられているような気分になります。
痛々しい、でも人ごとではない世界がここにはありました。

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