綿矢りさ著「私をくいとめて」を読みました。

みつ子は、平日は仕事、土日はそれなりに「おひとりさま」を満喫している一人暮らしの女。恋人はいないが特別作ろうと焦ってもおらず、脳内にいる自分であり自分ではないような「A」に話しかけるだけで日々の問題は解決し、孤独は紛れていた。
みつ子とランチを共にしている同僚のノゾミさんは、外見はパーフェクトなものの中身にかなりの難を抱える男片桐くん(通称カーター)にご執心。みつ子のところに時々ご飯をもらいにやってくる多田くんとみつ子の仲が発展したらいいと常に話を聞きたがる。
1人が心地よいが故に、他人と今更恋をしたり、深く関わったりすることに臆病な1人の女性が、その殻を破ってそっと誰かに寄り添うまでを描く、成長ストーリー。


「おひとりさま」なんて言って、世の中の恋もしない、結婚もしない女性たちをうまく取り込もうとしていることまで承知の上で、あえてその戦略に乗っかり、1人で行くのに難関であろうと言う場所にアタックして行く主人公のみつ子。
心の拠り所は、自分であって自分ではないような存在である脳内人格の「A」。恋をした時も、ピンチになった時にもいつもここぞと言う時に現れ、助けてくれた。
時には失敗もしちゃう愛しき「A」の存在で、もう自分の1人生活は満足であると思っていた。
ただ、ノゾミさんにあてられるようにして、急に恋人候補になってきた多田との関わりを除いては。

1人の女性が、自分の中に守ってきたテリトリーを他人に明け渡す時、相当の覚悟と勇気と諦めが必要なのだけれど、恋物語ではいい面しか描かれずなかなかそこに触れてくれない。
そんなもどかしい気持ちが綿矢さんの中にあったのかもしれません。
現代の若い人たちが、なかなか結婚や恋愛に踏み込めないと言う中、「本当の恋愛はこう言うものだよね」とそっと囁いてくれるような、そんな素敵な一冊です。

中でも、外見は人がハッと振り返るほどに格好良いのにとにかくセンスと気遣いが決定的に欠落しているノゾミさんが大好きな片桐くんがすごい!!みつ子と同じく、絶対恋したりはしないんだけど、ちょっと観察はしてみたい・・・そして何をされてもタフにしがみつくノゾミさんの恋、無責任に応援してみたい(笑)

そして私もみつ子みたいに、誘われてふっと異国に行っちゃうような、そんな心の軽さを得てみたい、と思う。


私をくいとめて
綿矢りさ
朝日新聞出版
2017-01-06