羽田圭介著「スクラップ・アンド・ビルド」を読みました。
又吉さんの「火花」の方により話題が集まる中で、同じく芥川賞を受賞した本作。ようやく読めました。


離職したばかりの健斗は、母親と祖父と三人で暮らす若者。生きることに時々無気力になる祖父は故郷の言葉で耐えず「早う死にたか」と漏らす。ふとその願いを穏やかに優しく迎えさせてやろうと考えた健斗は、再就職がままならない日々の中で己の肉体をいじめ抜き、老いて衰えゆく祖父の気力を削ごうと若さと生命力に開眼していく。


この物語に登場する健斗は、決して残酷なわけではないけれど、若者特有のドライさを持ち合わせている青年。
本心はともかく、子供のところを転々とし、日中は何をするでもなく陽の当たらない部屋にこもり寝たり起きたりを繰り返す祖父の日常。何のアクセントも刺激もない毎日に一番飽き飽きして、終わらせたいと思っているのは祖父なのではないか。
離職し、再就職もうまくいっていない健斗は、一時的に「何もすることがない」状況に陥って初めて、祖父の願いのことを真面目に考え始める。
いつもしんどそうに家中を足を引きずるようにして歩き、同情を引こうとする祖父。何でも人にやってもらおうという姿勢にイライラを募らせる母親。
そんな倦怠した家の空気に、健斗は若者らしい発想で発起していく。その生命力がまさに未来に対する希望であり、活力なのだと、社会の縮図を改めて見せられたような作品でした。

スクラップアンドビルド、古いものは悪い、排除せよということではなくて、これまでの自分を壊して建設的な思想を持ち進んでいく、そんなことを感じ取れる芥川賞にふさわしい力作でした。

羽田さんはこんな風に一つのことについて、深く深く掘り下げていくような作品が特徴なのでしょうか。 何となく津村記久子さんに近いものを感じてしまいました。最新作のゾンビの話も、ちょっと興味があります。

スクラップ・アンド・ビルド
羽田 圭介
文藝春秋
2015-08-07



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