吉田修一著「犯罪小説集」を読みました。

5編からなる中編集。それぞれ5つの事件を軸に、そこに行き着くまでの過程を丁寧にリアルに導き出した犯罪ストーリー。 

少女の失踪事件の容疑者とその母、その親子を取り巻く小さなコミュニティ。
かつての同級生が犯した保険金殺人を巡る同級生たちの壮絶な情報合戦。
大企業の四代目社長が陥ったギャンブルの泥沼。
小さな集落に集まる老人たちとそこに馴染み損ねた一人の男。
貧乏な家に産まれながらも、家族全員の支えによって成功したプロ野球選手の転落人生。


決して許されることのない犯罪が浮き彫りにされつつも、そこに行き着くまでのストーリーがどうにも逃げられない人間の業を浮かび上がらせます。
誰が犯人なのか、ということよりも、どうして犯してしまったのかに強くスポットが当てられ、その生き様を見る限りどこかその空気に当てられ、あたかもそこにいるかのように息苦しくなってくる展開もありました。

時には「何?どういうこと?」と煙に巻かれたような終わり方も。ただ、それこそがリアルで物事の真相など誰にもわからないことであって、それを理解したからと言って何かが大きく変わるわけではないかもしれない。
特に女の欲望をテーマにした「曼珠姫午睡」と、御曹司として育ち気づけばいろんな人から顔色を伺われ問題を提起されるばかりになった人生で、心置きなく付き合える友達との出会いにホッとその胸が解けた気がする「百家楽餓鬼」においては、どんどん押し出されていく運命の歯車が狂ったまま高速回転していく様が自分のことではないはずなのに胸に迫って苦しいほどでした。

吉田さんの作品にしては、その長さゆえか消化不良な気分になることもあったのですが、それも込みで彼の考える「犯罪」を描くというテーマがありのまま表現された小説だなと思いました。

人は自分の都合や私怨のみで犯罪を犯すとは限らない。これが真実なら、あまりにも哀しい。

犯罪小説集
吉田 修一
KADOKAWA
2016-10-15