桐野夏生著「ハピネス」を読みました。

ドラマがスタートする「砂の塔」がタワマンに住む主婦の恐ろしい人間模様の話・・・みたいな触れ込みだったのでもしかして原作?!と思いましたが、どうやら違うらしいです。

石見有紗は湾岸地区にそびえ立つタワーマンションの賃貸部分に住む主婦。いぶママ(いぶきちゃんのママ)他2人のママ友はタワーマンションの分譲高層階に住むセレブで、時々集まるママ友会に駅前の格下のマンションに住む美雨ママこと洋子(美雨ちゃんのママ)と有紗とは何となく壁がある。
有紗はある日、洋子に誘われ初めて2人きりで飲みに行くことになるが、そこで自分の知らない秘密や関係を聞かされ、言い知れぬ焦りを感じ始める。自分のことも知られてしまったら・・・有紗は自分の抱える秘密にそっと神経を尖らせるのだった。


タワマンに住む主婦たちの見栄の張り合いに最初は苦笑いするような気持ちで見つめていたのですが、有紗のあまりにも自信のない行動や考えに段々イライラしてきました。
子供を介してしか知り合っていないような、自分とは格が違う女たちとの付き合い、でも仲間はずれにはされたくなくて、何となく話を合わせたり、虚勢を張って嘘を言ったりしてしまう。その嘘に自分でがんじがらめになっていた有紗は、突然親しげに近づいてきた洋子にふと心を許す気になる。
何でも正直に口にし、決して高いものを身につけているわけではないのに元来の美しさで見事に着こなす洋子のことを有紗は苦手だと思いながらも、やがて信用し、頼るようになっていく。 

有紗は女たちのトップに君臨し、いつも隙のない外見と巧みな会話で皆を圧倒するいぶママに憧れているけれど、彼女に嫌われることを何よりも恐れ、萎縮してしまう。おとなしくて声高く主張できない地味な我が子を見ると、自分のママ友たちとの位置関係をそのまま見せられているようで落ち込む。 
ただ、有紗は徐々に自分の置かれている状況を受け入れ、過去にもちゃんと目を向けるようになる。決してスカッと発散したわけではないけれど、ゆっくり静かに有紗は変わっていく。 

ママ友の世界って全然わからないけれど、学生時代の関係、職場関係、そういうものとは違うヒエラルキーが存在するのだろうな・・・面倒そうだなと思いつつも、女の関係っていつでもどこでもそういう側面はあるなと思い当たる部分も。
正直に本音を言える人が妙にうらやましかったり、キラキラした生活を送る人に憧れたり、それがちょっと歪んでしまうと急に苦しくなってくる。そんなちょっとした隙をざらりと触られた、そんな作品でした。正直ばかりでも、見栄ばかりでも疲れてしまう・・・でもやっぱりその両方を持ちたいと思ってしまう。女って面倒臭いけど、面白い。

ハピネス (光文社文庫)
桐野 夏生
光文社
2016-02-09