朝井リョウさんの作品を続けて読むことになりました。今回は「武道館」。


愛子は昔から歌って踊るのが大好き。その大好きなことを思い切り出来る場所として、ごく自然な流れでアイドルグループに加入する。そのグループ「NEXT YOU」はリーダー的存在だった杏佳の卒業により、残り5人で夢である「武道館ライブ」を目指すことになった。
5人に課せられるアイドルとしての自覚、自分が成長していくことによる悩み、不安、そして心ないバッシング、スキャンダル。それぞれが抱える悩みとは裏腹にNEXT YOUは国民的なアイドルグループに成長しつつあり、愛子たちは自分たちが置かれている状況に次第に疑問を抱くようになる。


アイドルの話というのは何となくわかっていましたが、朝井さんが細かくアイドルの裏側を見聞きし、そこに妄想や想像を入れて膨らませたのだろうなと思えるほどに、客席から見るのではなく、まるで自分が舞台側から見ているような気分にさせられるお話でした。

アイドルになりたい!10代前半に純粋な気持ちで目指した場所に立ち、必死でそれに食らいついてきた女の子たち。知名度が上がるにつれて、注文度も高くなり、そこにはファンばかりではなくただ誹謗中傷を書き連ねるその他大勢もついて回るようになる。

これが本当にやりたかったことなのか。

青春の楽しみをほぼ捨て去って、求められるキャラクターそしてそこに自分らしさを混ぜながら、必死で生き残ることを考え出す10代後半。
20歳になればできることも増えるし、知名度が上がれば求められることもだんだん多くなってくる。

ただ、本当にこれでいいのか。

愛子は高校卒業をする時に、大学進学という選択肢がアイドルと共存しないことに疑問を感じる。こんな風にして一つ一つのことを「自分で選んだ」と実感できなくなってどのくらい経つだろう。
自分はただ、歌って踊りたい、それだけだったのに。

ただのアイドル小説というわけではなくて、ごく普通に学生生活を営めない青春真っ只中の女の子が何を考え何を思うのか、リアルに伝わってくる本作。前半ではアイドルになったメンバーたちを観客席で見ているのに、いつの間にかスポットが当たり左右にはそのメンバーたちがいるような気分にさせられました。
舞台の上は楽しく高揚できる場でもあり、過酷で辛くて厳しい場所でもある。

幼い頃から夢を叶え、それに向かってだけ進めばいいなんて、羨ましく素晴らしい世界なのだろうなと思っていたのに、変化していく自分とその世界が折り合わなくなったらそれほど辛いことはない。

朝井さんの作品には独特の匂いがあり、それが強くも弱くもなくとても心地良い。この作品も例外なく、すっと読めて、考えさせられます。
それにしてもよくわかるなぁ、女の子の考えることが。

武道館
朝井 リョウ
文藝春秋
2015-04-24