津村記久子著「まともな家の子供はいない」を読みました。

表題のほか1作を含む2作品が収められています。


セキコは家族全員に不満を募らせながら、どうすれば顔を合わせないで平穏に過ごせるかに心を砕く中学生。ままならない現実にイラつきながらも、自分の居場所を懸命に探しさすらっていく。
ただ、セキコの周りの誰もが現状に少なからず疑問や不満を抱いて暮らしていて、家族というものについて疑問を感じるようになる。


津村さんの魅力爆発。日々の何気無いどろりとした時間が淡々と語られるのですが、平凡な中に巧みに計算された言葉遣いがなされていて、これは自分のいる世界とも溶け合って混ざり合っているという錯覚に陥ります。
家族というものの健全な空気にプレッシャーを感じながらも、今不満を募らせる自分はおかしいのではないかという不安と戦っている思春期の少女の気持ちが痛いほどに伝わってきます。
乱暴な言葉遣いや投げやりな思考からは、現代の抱える問題というよりは、青春の一コマという匂いが色濃く出されていて、不快な感じはしませんでした。
それは大人からみる世界とは違うようで似ている感覚。
燃え盛るような嫌悪感は青春特有のエネルギーだと思うと、懐かしく思えてきます。

セキコのことは、すっきり解決するわけではないけれど、とにかく前に進んでいるのだという微かな実感が胸に残るラストでした。

そして表題作の中に出てくる一人の少女のことが描かれたもう一つの作品「サバイブ」では、よりリアルに大人の世界を覗き見る子供の視点が描かれていて、また違う側面の思春期の姿を見せられます。

そのままでいい、いつかきっとその時が来る。

そんな爽やかな励ましが光る、素敵な作品でした。フィクションも難しい時代なのかもしれないけれど、健全であって無知であることの美しさをただ求めるのではなく、現実にある姿を受け入れてその中で救いを求めていく、そんなことが求められているのかもしれません。

津村さんの作品は淡々とした中にも随所にセンスある視点が垣間見え、素晴らしい作家さんだなぁとつくづく思います。次は大人の分別ある恋愛モノなんかを書いて欲しいなぁ。