今更という感じではありますが、住野よる著「君の膵臓を食べたい」を読みました。

僕はクラスでは目立たない、存在感の薄い暗い男子。ひょんなことからクラス1明るくて快活で可愛い桜良の秘密を知ったことで、何かしら彼女と行動を共にすることになり、その噂はクラスをざわつかせていく。それでもあっけらかんと僕を誘ってくる桜良と関わっていくうちに、僕自身が次第に変化していく。二人の間にあるもの、それは恋愛でも友情でもない、「何か」だった。


表題になっている言葉「君の膵臓を食べたい」ですが、冒頭に出てきます。

桜良は膵臓の病気で、それが原因で余命一年だと宣告されている女子高生。医学の進歩により見た目には全然衰弱しているようには見えないけれど、確実に死は彼女を蝕んでいる。
そして彼女は言う「君の膵臓を食べたい」。昔の人は悪いところを直す時、その臓器を食べたということから由来するその言葉。当然向けられたのは僕で、桜良はその前向きで明るいキャラクターゆえに周囲には自分の病気のことをギリギリまで隠すことに決めているけれど、ひょんなところでばれてしまった僕には包み隠さず全てを話せることに、他にはない安心感を覚えているからこんなことを言う。

こうして僕は開示されていく。これまでひきもりとまで揶揄されるほど、一人でいることを何より大事にしてきたのだけれど、桜良と一緒にいることによって捲き起こる面倒全てを請け負ったとしても、彼女と一緒にいることを選んでしまう。


青春における死生観がみずみずしく描かれた本作。
人が死ぬということを描いた作品というのは、いかにもという悲しさの匂いがして好きではないのですが、これはやられました。
「僕」の名前をとても個性的に表現するところ、そして僕と桜良ちゃんの会話が映画っぽくていい。
二人の距離感や匂いがリアルに伝わって来る描写に、一気に読み進めてしまいました。

僕は思う。誰でもいつ死ぬかなんてわからない。そこに限りがあるとわかっているのか、限りを知らないのかそれだけの違い。健康で未来があるように見える僕よりも、一年という余命を宣告されている桜良のほうがより未来を見据えて暮らしている、そんな些細な矛盾にもドキリとさせられました。


表現スタイルにも個性が光り、非常に期待の持てる作家さんでした。
ラストにかけてはちょっと意外でもあり、肩透かしでもあり。賛否分かれるかもしれませんが、嫌味でない全体のトーンが私はすごく好みでした。他の作品もぜひ読みたいです。




君の膵臓をたべたい
住野 よる
双葉社
2015-06-17