中村文則著「教団X」を読みました。
かなり分厚い本で、参考文献の数を見ただけでも40冊以上!人間の暗部を描くのに卓越した著者ならではの、長編大作でした。(小説すばるに連載すること二年半だそう)


楢崎は思わせぶりなセリフを吐いて自分の元を去った恋人立花涼子を探して、とある教団に潜入する。ところがそこはカルト教団のイメージとはかけ離れたゆるい集団。そこで楢崎は今涼子がいるらしいもう一つの教団の存在を知らされる。彼女を求め、潜入を試みて二つの教団を行き来した楢崎は表と裏のような二人の教祖に魅入られ、教団が孕んでいるテロに巻き込まれていく。
 

最初に楢崎が行った教団の教祖である松尾。彼がゆるく集めた信者たちに語っていた説法。それは宇宙と人間、そして素粒子と脳などとても興味深い内容でした。
難しい言葉が並び、何度か行ったり来たりしながら読み進めましたが、松尾が言っていた有でも無でもない境地に行くことができたら、別の世界があるのだろうと思えます。
あらゆる宗教を超えた存在であった松尾と、人間の欲情を昇華させ己の罪の結末だけを見つめ続けてきた天才的な教祖沢渡。
二人の見つめる未来は同じものではないのだけれど、出発点に差はない。
増え続ける信者たちには、暗くてどうしようもない過去があり、そこから逃れるためにかすかな光を求めて師を崇める。そうすれば、自分の本来の姿にとらわれることなく、気持ちが楽になっていく。
ひところ、全盛を極めたカルト教団の存在は今ではあまり注視されることはないけれど、今の時代でも迷うものたちを先導してくれる強い存在は求められているのかもしれない。

人は自分のために、わがままのために、欲望のために生きていくという側面があるのだけれど、それを冷静に究極に見つめることができればそこには全く別の景色が広がるかもしれない。

世の中の仕組みや人間の営みについて、悟りの境地に行き着いた絶対的存在がその説を命の限り実践し、実験しようとする。振り回されるのは、凡人である大多数の人たちであり、裏にある企みや陰謀を考えることなく指示を待ち続ける。
考えることなく神をひたすらに崇め続けるのか、楽になるのを放棄して自由を享受し命の限りに闘うのか、その選択のどちらが正しいのか誰にもわからない。
書いている中村さんにすら、すべては見えていないのではないかなと思いました。

圧倒的な筆力で、人間のどうしようもない欲望から崇高な思想までを振り幅大きく描ききっている本作。
ただし、性的な描写が随所に出てくるのでそのようなお話が苦手な方にはオススメはしません。男性と女性とでは捉え方にだいぶ差があるのではないでしょうか。

とにかく、著者のパワーが前面に出ている意欲作です。 

教団X
中村 文則
集英社
2014-12-15