奥田英朗著「我が家のヒミツ」を読みました。「我が家の問題」に続く、我が家シリーズ。

家族や人とのつながりをヒミツというテーマに乗せて綴る6つの短編集。
今回特に良かったと思えるのが「手紙に乗せて」。

会社員2年目の亨は、母を突然亡くしたことで妹、父親と家族三人暮らしになる。
これまで家族の中心となって皆を結びつけてくれた存在を亡くし、家族は慣れないながらも寄り添って生活していくのだが、想像以上に父の落胆は激しく、亨たちを戸惑わせていた。そんな時、親身になってくれたのは同じ経験をしてきた者たち。大人として、経験者として、父親に差し伸べられた手は亨の心も温かくしていく。


亨の周囲の同年代の若者はナチュラルに鈍感で、それは「経験があるかないか」の違いだけなのだけれど、結局これに解決があるわけではない。心の中のことは想像以上に複雑で、それはもう他人にはわからないことなのだけれど、同じ立場に立ったことがある者同士だけに通じる言葉というものがあるんだと改めて感じました。
特に、ここに出てくる手紙の存在がいい。世の中にいろんな表現方法があるのだけれど、手でしたためた言葉に勝るものはないのかもしれません。


「妊婦と隣人」は一転して、ミステリーなのかと思える展開に思わず笑ってしまうようなラスト・・・なかなかウイットに富んだ話で面白く読みました。

奥田さんの小説はあまりスカッとした解決やラストがあるわけではありません。それは時に心をしくしくと締め上げるのですが、「我が家のヒミツ」はタッチはライトながらも奥田節は健在だなと思わされます。物足りない物語もあるのですが、それは奥田さんの毒に当てられたからなのか。
とても読みやすいので、あまり小説に親しみのない方でも楽しめると思います。ぜひ奥田ワールドの入口として手をつけてみてください。