芥川章を受賞した羽田圭介さんの作品。受賞作を読む前に、それ以前の「盗まれた顔」を読んでみました。

白戸は、東京の街をひたすら歩き回り、記憶した手配中の犯人を探すという「見当たり捜査」をする課に配属されて五年。美人で「見当たり」に卓越した才能を発揮する安藤、長身でスランプ中の谷とともにチームを組んでいた。
約500人の手配写真を日々見つめ、頭の中に叩き込んでいる白戸だったが、このゴールの見えない雲をつかむような捜査にしだいに感覚を蝕まれ、自分が見つめる先にいる「見覚えのある顔」がいつ記憶したものなのかわからなくなっていた。

この「見当たり捜査」というあまり脚光を浴びない、非常に地味な捜査方法。それを丁寧に描き出している羽田さんの筆力に驚きました。
毎日毎日、 東京の街をうろうろしながら人の顔を確認し、記憶の中の手配写真との照合をしている捜査員がいる。ともすれば数ヶ月も誰とも遭遇しない可能性があり、本当に出会っていないのか、見落としているだけのか、誰からも指摘されないという孤独な仕事。
過酷にもそこに配属され、才能ある後輩からの突き上げを感じながら、淡々と日々を消耗していく男の、顔に対する異常なまでのこだわりが匂ってきます。

公私の区別さえも甘くなり、かつての記憶を目の前に突きつけられたとき、白戸はどうするのか。

地味な捜査ゆえ、華々しい抑揚はないものの、 じっとりと描く繰り返しの描写がこの作品の大きな特徴を深く印象付けてくれました。

芥川賞受賞作品も、読んでみたくなりました。

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