津村記久子著「ワーカーズ・ダイジェスト」を読みました。

津村さんの魅力満載の本作。何気ない男女の日常を絶妙な距離感で描き出します。

奈加子は大阪のデザイン事務所で働く傍らで、副業としてライターの仕事をしている。重信は東京の建設会社に勤めるサラリーマンで、一人暮らしの生活に疲れを覚えつつも日々を何とか暮らしている。
そんな2人がある日、双方の会社の代理人として顔を合わせることになり、 名字が同じ佐藤であること、そして同い歳で同じ誕生日であることがわかり、それぞれの生活の中で折に触れて「同い年の佐藤さん」を思い出すことになる。

 毎日、瑣末な悩み事や大きな問題に惑わされながら、日々を暮らしていて、時には疲れてしまったり、怒ってしまったり、そんな中にもささやかな楽しみを見出している平凡な男女。
その一年を通して、奈加子の愚痴にも重信の疲労にも同感なところがありつつ、何となく2人がうまくいかないかなぁなんてふと思ってしまう空気感にやられました。ラストシーンのほっとする感じがこれまた良くて、30をいくつか過ぎたという微妙な年頃の、宙ぶらりんな立場や悩みや苛立ちに、どうやって立ち向かっていくのか、という"答え"よりもただそこに寄り添って「こういうこともあるさ」と言われている感じがします。

文庫本には、尊敬する先輩が「大変なことになっているらしい」という曖昧な情報をもとに、右往左往してしまう男女のささやかな抵抗のお話、「オノウエさんの不在」も収録されています。

そしてそして!!!巻末の解説は何とこれまた大好きな益田ミリさんの漫画!
表紙デザインは名久井さん、とスペシャルな本なのでありました。これで420円!!本って素晴らしい。

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