津村記久子著「エブリシング・フロウズ」を読みました。

中学三年生になったヒロシは、クラス替えで周りのヤツらよりも大人っぽくてつかみどころのない矢澤とつるむようになる。高校受験を前に、将来について考えなくもないけれど、雑多なことがヒロシの心をゆらゆらと揺さぶってくる。高校に入学するまでの一年間を、同級生・家族・友達の家族を交えて綴った物語。


ゆるりと動いていく時間を鋭く、気怠く、そして社会的な側面も織り交ぜて描かれていて、自分がもしかして今中学生だったとしたら、記憶の中の学校生活とは全然違うものになったのだろうなと思わされました。
塾とコンビニと学校、これだけで毎日がほぼ終わってしまう。帰ってからは父親のいない家庭で母親が少々鬱陶しく、気苦労を背負い込んでいる。愛情がないわけでもなくて、不良になるわけでもない、ただどうしようもないイライラとか、理不尽さには時々負けそうになっている。

大人びた発言をするかと思えば、子供っぽい側面もある・・・そんな不確かな存在で自分で自分を持て余してしまうような感覚、それを非常に瑞々しく浮かび上がらせるのが津村さんならでは。
読みながら、自分が少しばかりあの頃の感覚に戻れるような錯覚に陥りました。

ただ、あんな不安定な時期に、携帯だとか陰湿な思惑とか、友達の家族のごちゃごちゃしたところなんかがなくて良かった・・・そんな風に思う反面、案外その時に出逢っていた事柄って今思えば何てことないのだけれど、若い感性で乗り切ってしまっていたタフな側面があったのかなと思えます。 

あの頃に戻りたい・・・とは思わないけれど、津村さんの小説を通じて少しだけタイムスリップ出来ました。こういうのって、小説の醍醐味なんだと思う。

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