島本さんの本は、女性の欲望を実にざらりとした感覚で、でも甘く切なく描くのに長けた方で、主人公の気持ちがぐいぐいと奥まで入ってくるような気持ちにさせられます。面白くて、もう一気に最後まで読んでしまいました。

〜ストーリー〜
塔子は、義理の両親と同居ではあるけれど、かっこ良くて優しい旦那さんと可愛い娘、友達のように接してくれる義母、気難しいけれど出張がちで家にいない義父と素敵な一軒家に暮らす何不自由のない主婦。
ある日、友達の結婚式でかつて自分が恋い焦がれ、けれどどうしても手に入らなかった男、鞍田と再会する。昔と変わらず強引に近づく彼に、強烈に揺さぶられる塔子。封印していた様々なものが、解き放たれ、届かないものに触れたとき、塔子の閉ざされた欲望の欠片が次々と噴出していく。


不倫という男女の関係の中で、決して立ち入れない何かがあって、そこに到達できないでいじらしく抱き合う2人に、未来などあるのだろうか。
塔子は満たされていると思われているけれど、空虚で何にも期待しないで生きることに疲れていた。優しいけれど、自分の価値観だけで生活をする旦那に疲れ、ひとつひとつのことにいちいち神経を尖らせていても、決して表に出すことをしない。
傷つくのが怖いのか、何かを失うことを畏れているのか。

自分の中の何かが壊れていくとき、塔子は自分がわからなくなっていく。
欲望を秘めつつも、それに正直に向き合うのことのできない塔子という女性には共感するところが多々ありました。近くて隣にいるからこそ、言わないことがある。ずっと一緒にいるのだと思うからこそ、言いたくない言葉がある。

どうしようもない欲望とプライドの狭間で揺れる、一人の女性のつかの間の夢想と覚醒のオハナシ。
人が人を愛するということは、刹那狂おしい。その記憶があれば、何の変哲もない平坦な道にいても、迷うことはないのかもしれません。