奥田英朗さんの作品は、割と救いがないものが多いので、元気な時にしか読めません

〜ストーリー〜
本城町。いつもつるんでいる不良仲間の3人。オヤジ狩りをしていたところ、運悪く九野警部補と出くわしてしまう。九野は気の進まない任務を遂行している最中で機嫌が悪かった。
そんな折り、とある会社で放火事件とおぼしき火事が発生する。
そこの会社の社員で、第一発見者でもある及川。その妻はパート勤めをするごく平凡な主婦。
どこにでもある、ありきたりな人間関係。その日常がゆっくりと壊れ始めていた。


奥田ワールド全開。ごく普通の平凡な人々が、ひょんなことから犯罪や思いも寄らない出来事に遭遇し、巻き込まれ、あっけなく日常から乖離させられていく。その様が実にじっくりとリアルに描かれている本作。
不良3人と警察、ヤクザと警察、警察と及川一家、それぞれが絡み合い、接近し、そして関わっていく。

以前読んだ小説の中で、主人公が感じたいわれも得ぬ幸福のことを"全能感"と表現していました。でもこれは人が最も絶望的、または今絶望に向かっているとはっきり感じ取ったときに感じることは何かを存分に感じさせてくれます。
及川の妻恭子は、ふとした疑念を追い払おうと自分の描く理想の家族像、理想の家に逃げ込もうと必死で思いを巡らせる。それはもう切望としか言いようのない事実。パート主婦として何ら人と変わる事のない平凡な、時として退屈とすら感じていた日常の中、一度は全て手にしたものがゆっくりとこぼれおちていったとしたら・・・どうやってそれをとどめることが出来るのか。

人が幸せだと感じる物差しは、それぞれ個人にしかなく、決して他人にはわからないものだけれど、それでも人はそれに固執し、その中でバランスを保とうと思う。

もし、自分がその状況になったとしたらどうか。本当に冷静な目で「それは違うんじゃない?」という判断を下せるのか。いくら考えても、答えは出ませんでした。
長編ゆえに、どっと疲れが押し寄せました。登場人物とともに、物語の中を疾走した・・・そんな読後感の残る小説でした。