読後感想文〜書評show〜

フィクション大好き!こよなく本を愛するLULUがありのまま、感じたままに本を紹介します。好きな作家は、吉田修一さん、津村記久子さん。

貫井徳郎著「後悔と真実の色」を読みました。

後悔と真実の色 (幻冬舎文庫)
貫井 徳郎
幻冬舎
2012-10-10


文庫本でも結構な厚さ!

前後してしまいましたが、「宿命と真実の炎」の前の物語となる本作。
切れ者の捜査一課刑事西條が警察を追われることになったある事件を背景に刑事たちの思惑、SNSを操り警察を煙に巻くこれまでにない犯人像などが描かれています。 
"宿命と真実の炎"を読んでいたせいもあるかもしれませんが、早い段階で犯人の目星はついたものの、西條を取り巻く刑事たちのストーリー、そして刑事ドラマなどでは決して見られない警察の内情などが事細かに描写され、新しい刑事ものとしてかなり楽しめる内容となっています。


抜群の冴えを見せる独自の観察眼でスピード出世を果たした捜査一課刑事西條。見た目のスマートさに加え、仕事一筋他人のことなどお構いなしの振る舞いには不満を覚える同僚や部下が多いものの、その能力の高さは誰もが認めていた。

そんなある日、女性の惨殺体が発見される。その被害者の特徴は指が一本なくなっていたこと。
怨恨と通り魔両方の線で捜査が進められたもののいまひとつ決定打に欠ける中、第二の事件が発生。その被害者の特徴から連続殺人と目されるものの、報道には伏せていた指のことが一気に漏洩することになり、第三の事件が発生する頃にはSNSでの膨大なスレッド、情報漏洩による模倣犯の可能性も浮上し、捜査はますます混迷を極めてくる。


宿命と真実の炎で、すでに西條の末路は知っていたものの、もう少し万能な切れ者刑事のイメージだったのが、犯人逮捕以外には興味がなく、冷え切った妻との仲を愁い、家庭以外に温もりを求めてしまう、意外にも人間臭い部分が多く感じられました。
西條はその勘の鋭さで事件解決に大きく貢献しているものの、家柄が良く容姿端麗、他人の言動を全く気にしないそのキャラクターは多くの敵を作る結果となってしまう。その反感が己の足をすくう結果となってしまい、本人の熱い魂とは裏腹な結末を己で引き寄せてしまった。
その運命には興味深いものを感じつつ、もう少しうまく立ち回れなかったのかなという妻にも似たような思いにとらわれました。
その妻との仲が冷え切っていく様などは、非常にリアルで胸に迫る。愛情がないわけではないのに、すれ違っていく過程は夫婦仲を描いた作品と言っても過言ではありません。

貫井さんの小説は事件解決や犯人探しと言ったミステリーの要素の他に、人間模様が深く丁寧に描かれているところがすごく面白い。
読んでいる最中は寝不足必至。ページをめくる手が止まりません。

もう少し別の作品も読んで見たくなりました。

宿命と真実の炎
貫井 徳郎
幻冬舎
2017-05-11



慟哭 (創元推理文庫)
貫井 徳郎
東京創元社
1999-03-17

 

貫井徳郎著「宿命と真実の炎」を読みました。

宿命と真実の炎
貫井 徳郎
幻冬舎
2017-05-11



先日「サスペンスはどっちつかずの状態を意味し、人間はその何なのかわからない状態が一番怖い」のだと聞きましたが、まさにそんな感じのサスペンス小説です。

開始10ページで、白バイ警官の杉本が事故死、そしてそれを手引きしたと思われるレイと誠也、かつては切れ者として捜査一課で活躍したがスキャンダルによって身を滅ぼした西條とその兄、と場面が次々に展開します。そしてさらに進めると今度は高城という女性刑事が登場し、さらなる事件が起こる。
警察官が相次いで死んだことを連続殺人事件だと発想したことを元に、私怨によるものだとの仮説に置いて動機となる事件が洗い出されるが、その首謀らしきレイと誠也にどう結びついて来るのかがわからない。

まさに何がどうなっているのかわからず、ただひたすらにページをめくるしかないという小説です。

途中、レイの正体や、なんとなくのストーリーは予想できたものの、ラストを迎えても釈然としない気持ちは残ります。
全てが綺麗に回収されて「はい、解決」という終わり方ではなく、どこまでも胸にもやもやとしたものが残り、それを抱えて行くしかないということが描かれていて、それが逆にリアリティに溢れています。

誠也の孤独な覚悟、そして護るべき存在の尊さ、それに対して隠蔽を重ね己の首を絞めることになる警察とそこに属するものの正義や倫理、そこに元刑事である西條を絡めることにより、その構図はより立体的になります。

一つの事件を見る時に、犯人と被害者そしてそこにある動機、そういったものはネットやニュースにより報じられることはあるのだけれど、そのニュースの奥行きまでに触れられることは少ない。ある意味、切り取り方によっては、どんな風にも事件の見方は操作し誘導できる。この小説に書かれた事件も、「偏った感覚の持ち主が引き起こした世間を震撼させる凶悪事件」となるのですが、表面的なイメージからはかけ離れた現実がそこには備わっている。
時にはそれを上回る強烈な想い、そしてその一方でそこに到達しない自分勝手な論理によって運命が大きく捻じ曲げられる。

今回の事件のキーマンとして登場する、切れ者で勘が鋭く、容姿端麗な元刑事西條の関わった事件というものがどうにも気になって見てみると、「後悔と真実の色」という前作があるようです。是非ともそれを読まねば!

後悔と真実の色 (幻冬舎文庫)
貫井 徳郎
幻冬舎
2012-10-10



それにしても貫井徳郎さんの作品は心理描写や人間の過去を丁寧に描いて重厚なストーリーを作るのがとてもうまくて引き込まれます。

愚行録 (創元推理文庫)
貫井 徳郎
東京創元社
2009-04-05


 

原田ひ香著「ランチ酒」を読みました。


ランチ酒
原田ひ香
祥伝社
2017-11-14



犬森祥子は一人暮らしのバツイチ女性。
今は昔馴染みの亀山が営む「お助け本舗」の主な仕事「見守り屋」の一員として働いている。勤務時間は深夜から早朝になることが多く、文字通り「見守る」ことが仕事。
そんな時間帯に勤務する祥子は、1日のうち最も力を入れているのが「ランチとお酒」。今日もどんなお酒にどんな食事を合わせるのか、ネットの情報も駆使し頭を悩ませる・・・


題からして、女一人でランチとお酒が両方楽しめる店を紹介しているようなライトな話なのかと思いきや、祥子が抱える問題、不思議な業態に助けを求めてくる人々の裏事情など、とても深いところにまで話は及びます。
見守る、というのは受け身の仕事であり、積極的に資格や能力を駆使して挑むという働き方ではないのだけれど、人生に疲れていた祥子には見事に適した仕事だったのかもしれない。絶妙な距離感が重宝がられ、リピーターも多くなる。
その中で、祥子自身が抱えている問題についても相対する人たちにより、より深く考えることになったり、彼女自身にも変化が起こり、これからも続いて行く日常にひっそりと覚悟を決めることになる。

とても冷静に物事を考えられる祥子なのだけれど、時には友人たちの助けも借り、迷いなから進んで行く。そしてとてもさっぱりした気持ちで美味しいお酒とランチに身を沈める。

ランチの店ごとで話が分かれているのだけれど、中でもうなぎを食べる「不動前 うな重」の章がとても好きです。祖母と母の介護をしている陽菜の幸せを、時には稚拙に時には年上らしくひたすらに願う祥子が微笑ましい。

これを読むと昼間のお酒、嗜みたくなります。それでなくてもランチにお酒が飲めるお店ってなかなかないんですよねー。東京ならもっとあるのかな。
平日の昼間となるとハードル高いし、車不可欠の田舎だとその後の予定も絡んできてなおハードル高し。

ただ、たまにはいいよなぁと浸れる幸せがあってもいいなとは思う。

原田ひ香さんと言えば、この話も秀逸でした。彼女は都会の隙間産業的な特殊な業態を見つけるのが得意なのだろうなぁ。



これもなかなか面白かった。断捨離なんてもんじゃない・・・



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